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パイは猫である


 治安警備隊本部の地下に牢屋がある。


 人間とそうでない者、両方に使える牢屋だ。人間は牢屋に入ったら扉を閉め鍵を掛けて終わりだが、妖精はそうはいかない。変化(へんげ)して小さくなり鉄格子の隙間から逃げてしまうこともあるからだ。


 なので妖精には特別な足かせを付ける。これは妖精の国から送られてくる物で変化の能力を封印する効果があるらしい。

 

 足枷を付けて扉を閉めたあと、牢屋の前に椅子を持ってきてルカは座った。


「さて、お前の処分だが・・・」

「あたしは大したことはしてないじゃない。もうしないから逃がしてよ」


 ルカが言い終わるのを待たず、その妖精は口を挟んできた。

 令嬢の寝巻を着たままだが耳が獣のそれだった。


「お前、名前は?」

「そんなのどうだっていいじゃない、出してよ!」

「じゃあ タヌキ」

「ちょっと! タヌキじゃないって言ったでしょ。あたしはネコ科よ。百獣の王なんだから」

「ネコ、お前は管理局行だな」

「どうしてよ、誰も傷つけたりしてないでしょ」

「変化して人間を騙す行為はA級犯罪にあたる。引き渡さないと俺がペナルティを食らうんだぞ」


 妖精は言葉に詰まった。確かにA級だと管理局行になってしまう。管理局に送られると人間世界と同じように裁判にかけられ、判決に応じて箱行の刑期が決まる。


 『箱』はこんな牢屋とは比べ物にならないくらい恐ろしい場所だ。場所とすら呼べない。

 体がすっぽりと収まる個別に作られた箱に入れられ、飢えることも乾くこともないまま刑期の間閉じ込められてしまう。

 真っ暗な箱の中で身動きも出来ずにただ時間が過ぎるのを待つだけの箱行・・・きっと1日で頭がおかしくなってしまうに違いない。


「ねぇ、あたしは『パイ』って言うのよ。管理局行きさえ見逃してくれたら、あんたの手下になるわ。言われたことをなんでもやる、だからお願い!」


 パイは更にこうまくしたてた。


「それにあんた、よく見るといい男じゃない。あんたの女になってやるわ。妖精を抱いた事なんてないでしょ? どう・・」


 ルカは遮った。


「俺の趣味じゃない」

「何よぉ~あたしの本当の姿を見た事もないくせに」

「興味ないね」

「チックショー」


 パイは鉄格子を掴んでがなり立てた。


「俺は腹が減ったんで行くよ。少しそこで頭を冷やしな」


 ルカは地下の階段をさっさと上って行ってしまった。




 部屋に帰るとロッシが夕食を用意して待っていた。


「どうだった? あのタヌキは」

「プハッ、あいつネコだってさ」ビールを思わず吹き出しそうになりながらルカは答えた。


「で、パイって名前なんだと。管理局行きをなんとか止めようと必死だったな」

「そんなに恐ろしい場所なのかねぇ」

「さぁな、俺も詳しくは知らないから・・・う―ん、どうっすっかなぁ」

「引き渡さなかった場合のペナルティは?」

「それ、俺も知らないんだよね」


 悩むルカを見てロッシが聞いた。


「ある程度まともな理由があれば見逃してやるのか?」

「俺の手下になるって言ってるのはちょっと面白いと思うけど。それが俺にどんなメリットがあるのか分からない。死ぬほど管理局行はイヤみたいだな」

「素直に事情を話すタイプには見えないな・・何か方法はないか・・ネコかぁ・・」


 ロッシお手製のピザを頬張りながらビールをゴクゴクやっていると、突然ロッシが手を叩いた。


「な、なんだよ急に。また吹き出しそうになったじゃないか」

「汚いなぁ」

「で、何を思いついたの?」



 翌日ルカはロッシの考えを実行することにした。


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