ルカ大好き
ルカが外出から戻ったのは午後のお茶の時間だった。蒸留所も今日はお休みで家族が揃っていたため、外でお茶をしようとエマ夫人が提案したのだ。
ロージアン家の財宝が見つかってから城は一斉に手入れが始まった。使用人も増え城はかつてないほど活気づいた。
皆でお茶を囲んでいるこの庭園も美しく整備され噴水には再び水が入り眩しい太陽の光を反射している。庭園には花が咲き乱れ、忙しく手を動かす庭師のほうから心地よい草の香りと花の香りが混じって漂ってきた。
「ロージアン卿、長らくお世話になりましたが依頼も完了したことですし俺はビタリに帰ろうと思います」
突然のルカの発言にダイアナは凍り付いた。
(ああ、やっぱり帰ってしまうのね。私はどうしたらいいの・・このままずっと一緒に居たいのに、ルカはそうじゃないのね)
「そうですか、これまで家族同然で暮らしてきたから少し寂しくなりますな」カップを皿に戻しながら言ったロージアン卿は心からそう思っている様だった。
エマ夫人もレナードも心配そうにダイアナに視線を移した。
「ああそうだ、報酬もお渡しせんといかんですな。財政状態が改善しましたから色を付けさせていただきますぞ」
ロージアン卿は満面の笑みで請け合った。
「その報酬の件なんですが・・実はお願いがありまして。現金ではなくてですね・・」
「現金ではなく金か宝石がお望みかな?」
「いえ・・その・・」
パイはじれったくなってきた。エマ夫人はルカの言わんとしている事に気づいたようで表情が和らいでいた。
(もぞもぞしてないで早く言っちゃえ! ルカ!)
「あの・・報酬は・・お金でもなく宝石でもなく・・」
ルカの目線がダイアナに行くと流石にロージアン卿もピンと来たようで、その顔からは笑顔が消えた。ダイアナはハッと息を飲んでルカを見つめている。
「イカン! それはいかん! 私は絶対認められん! いかんいかん」
まるで駄々っ子のように言い張るロージアン卿にエマ夫人がピシャリと鶴の一声を発した。
「あなた!」
ロージアン卿はシュンとしてしまいダイアナを見て言った。
「娘が・・それを望むなら・・仕方あるまい。結婚を許可しよう・・」
ダイアナの隣に座っていたレナードが妹を祝福した。「良かったな。幸せになるんだぞ」
「ありがとう、兄さん。お父さんも許してくれてありがとう・・」ダイアナの瞳は歓喜に潤んでいた。
ダイアナとルカは中座して湖を見下ろせる崖まで散歩した。
「俺、勝手に話を進めちゃったけど・・ダイアナ、俺と一緒にビタリ国に来てくれるか?」
「ええ、嬉しいわルカ。私あなたに付いていく。私はルカの傍に居られるならどこだって平気。それにほら初めてじゃないのよ、ロッシのアパルトマンにも泊まったんだから」
「そうだったな。あの時は観光どころじゃなかっただろうから、今度は俺が案内するよ。色んな所へ一緒に出掛けよう」
そう言って微笑むルカの声は優しく、未来への希望に満ち溢れていた。
「ルカ、大好きよ」ルカと向かい合ったダイアナはルカの手を握って笑みを返した。
「あ! 今気づいたけど」
「え?」
「ダンからもダイアナからもちゃんと告白されたのは初めてかも」
「そうだったかしら?」
「だな。もう一回聞きたい!」
「・・ルカ、大好き」
「さっきは『大好きよ』だった」
「・・ルカ、大好きよ!」
「あー」ルカはまだ何かあるように言いかけたが、ダイアナが手でルカの口を押えて言わせなかった。
「もうダメ! 恥ずかしいからダメ!」
ルカは満足そうに笑いながらダイアナを抱き寄せた。そしてちょっとむくれて尖ったその唇にキスした。
「・・ねえルカ、これもね私のファーストキスだと思うの。女の子に戻ってから初めてなんだから」
頬を上気させたダイアナがルカを見つめて言った。
(うわぁ・・可愛すぎる)
ルカはもう一度ダイアナをきつく抱きしめキスの雨を降らせたのだった。