再び新月の夜
翌日、昼過ぎからずっとルカはダイアナの傍に付いていた。二人で窓辺に座り暗くなるまで本を読んだりお茶を飲みながらおしゃべりして過ごした。
やがて夜が訪れた。
「ルカ・・私なんだかいつもと変わりないわ・・」
ルカはダイアナの額に手をあてて言った。「うん、熱もないみたいだ。肩は?」
「全然痛くない」
ダイアナは浴室に行き鏡で肩を見てみたが肌に異常は無く、それどころか噛み跡らしき傷跡も消えていた。
「傷もないわ。体が変わってから気を付けて見ていなくて気づかなかった・・」
「そうか! 元の女性に戻る時、体がそっくり新しくなったんだな。だから前の体に付いていた傷は消え、傷についていたトッドの怨念も消えたんだ!」
「じゃあ本当に、本当に全て終わったのね! トッドの事も精霊の呪いも!」
「ああ、そうとしか考えられないよ。良かった!」
ルカは思わずダイアナを抱きしめた。だがすぐハッとして気まずそうにダイアナから離れた。
「今夜は念のためにここに居るよ。俺はあっちのソファで寝るから、もし体に異常を感じたら起こすんだぞ」
ソファで少し窮屈そうにしながらルカは毛布を掛けて横になった。
ダイアナは大人しくベッドに横たわったが一抹の不安が沸き上がり、なかなか寝付けなかった。
(私が女性に戻ってからルカは少しよそよそしいわ・・。優しくしてくれるけどそれだけ。まだキスもしてくれてない。もしかして女性になったからダニエルだった時と同じ気持ちではいられなくなってしまったのかしら? そうだったら・・ロージアン家の依頼も終わって、トッドの呪いも消えた今ルカは私の元から去ってしまうかもしれない・・)
翌朝、ダイアナの様子が心配で朝早くにパイが部屋を訪れた。
「ダイアナ、起きてる? 調子はどう?」
ドアの近くに居たルカがソファから起きてドアを開けた。
「え、ルカ? ダイアナの部屋に泊まったの?」
「そうだぞ。だけどダイアナに呪いが出なかったんだよ!」
ルカは嬉しそうに自分の仮説を話して聞かせた。
「それは良かった! あたし、女の子のダイアナがあの苦しみに耐えられないんじゃないかって心配してたの」
そう言いながらパイはまだベッドの上のダイアナを抱きしめた。
「ところで! ルカに変な事されなかった?」
「なっ、変な事ってなんだよ! ほら、これ見ろよ俺はソファで寝たんだぞ!」
ルカはソファの上の毛布を持ち上げた。
「あらルカにしちゃ紳士的じゃない。見直したわ」
「言いがかりもいいところだ・・さ、朝食だ! 安心したら腹が減ったよ」
ご機嫌で階下へ降りて行ったルカとは反対にダイアナは元気が無かった。
「どうしたの? やっぱりルカに何かされたんじゃ・・」
「ううん、違うの。・・その、何もされなくて・・」
ダイアナの悩みを聞いたパイは自分が今まで見てきた姿と違うルカに少し驚いていた。(ビタリで一緒に警備隊の仕事をしてる時だってかわいい子を見かけたら誰彼構わず誘ってたルカがねぇ)
「はーん、なるほどね。まだキスのひとつもしてくれない、と」
「やっぱり・・前のままのほうが良かったのかな・・」
「何言ってるの! そんな訳ないでしょ。ルカは絶対ダイアナを好きだよ。元気だして! お腹空いてると弱気になっちゃうんだよ。下へ行って朝食にしよう」
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朝食後、ルカを外へ呼び出したパイは早速疑問を投げかけた。
「ねえルカってさ、まさか男への愛に目覚めちゃったわけ?」
「話があるっていうから来たのに、いきなり何言うんだよ」
「ダンがダイアナになっちゃったらもう気持ちが冷めたの?」
「何を根拠にそう思うんだ?」せっかく気分のいい朝だったのに、言いがかりを付けられたルカは少しとムッとしていた。
「妖精の感よ!」
「外れてるよ、思いっきり!」
「なーんだ。じゃあ何でダイアナに触れてあげないの?」
「だってお前・・見て分かってるだろ? ダイアナのあの姿。純真無垢でびっくりするほど綺麗で輝いてて・・しかも大金持ちの貴族のお嬢様なんだぞ。年だって8つも離れてるし、俺なんかと釣り合わないよ」
「ルカぁ・・中身はダンなんだよ忘れたの? ルカがいないと生きていけないよきっと・・」パイは呆れた様にルカの顔をまじまじと見た。
ルカは何やら考えていたがすぐ顔を上げてパイに尋ねた。
「パイ、ここでの仕事は全て終わったと思う。お前はこれからどうする? 俺はビタリに帰るつもりだが」
「どうするってあたしはあと4年はルカと一緒にいないとだめじゃん」
「でも母親の傍にいたいだろ?」
「うん・・でもルカだってダイアナをどうするの? 仕事が終わったらお別れなの?!」
「考えがあるんだ・・俺に任せろ!」
ルカは自室に戻り手紙を書いてからどこかへ出掛けて行った。