石橋の残骸
ここからは一気に最後まで・・
ダンがダイアナに戻ってからもうすぐ1週間になろうとしていた。
城ではジュードもエレンと共にが呪いについて知らなかった為、二人はとても驚いたようだった。二人にも危険が及ばない様に口外しない事を約束させた後、呪いについての説明がなされた。
「良かったねルカ・・ダンが本当は女の子で!」
「あ? ああ・・」
「どうしてそんな浮かない返事なのよ?」
「いや考え事をしてたんだよ」
今日は珍しくのんびりと湖を散策していた二人はボート遊びをする船着き場の近くまで歩いて来ていた。城から500mほど離れた場所にある船着き場には緑と青で塗装されたボートが沢山浮かんでおり、何組かの親子連れやカップルの姿が見られた。
「呪いを解いたきっかけは何だったのか考えてたの?」
「そう」
「ルカはダンに愛を囁いた。そしてキスをした」パイは舞台役者のような身振り手振りで言って見せた。
「そ、そうだ」
「そうしたら、あら不思議! 呪いが解けて男は美女に変身しました!」
「あれ・・何か思い出せそうなんだが・・どこかで似たような話を聞いた覚えが・・」
「お伽噺じゃないの? 王子様がお姫様を助けて二人は恋に落ち~最後は結婚してめでたしめでたし」
「それだ! すぐ城へ戻るぞパイ」
「え? え?」
ルカが向かったのは沢山の肖像画が掛けられている長い廊下だった。
その廊下の奥、城の風景を描いた1枚の絵。その正面にルカは立ち、腕を組んで確信したように言った。
「初めてこの絵を見た時、何か違和感があったんだ」
「そうなの? あたしは分かんないや」
「この絵を描いたのは有名な童話作家なんだ。まさに彼の話はその王子様がお姫様にキスしたら呪いが解けた・・ってやつなんだよ。この作家がロージアン家の呪いについて知っていたとしたら? それを童話で伝えようとしたのかもしれないだろ?」
「あーーキスして呪いを解け! って?」
「キスだけじゃないと思うな。ポールがダンに手を出した事があったろう? ダンは・・ポールにキスされたらしいんだ」
「そっかポールにキスされても呪いは解けなかったのね」
「そう!」
「お互い思い合っていないとだめなんじゃないかな」
「・・なんだかただのお惚気を聞いてるだけの気がしてきたんだけど」
「いや・・で、だな」
(お、話を逸らす気だね! まぁ勘弁してあげるか、パイ様は心が広いのだ!)パイは照れているルカが少し可愛く見えた。
「この絵にも何かヒントがあるかもしれないと思ったんだよ」ルカは絵の石橋をなぞりながら言った。
「この石橋は地震で壊れた後の絵のはずなんだ。年代から言ってね。でも石橋がカーブしてないだろ? 壊れる前のまっすぐな橋が描かれてるんだよ」
「そう言われてみると・・」
パイも首を右に左に傾げながら石橋を吟味していた。
_____
古い石橋の調査が再開された。前回見つかった橋の基礎、アーチの縦半分は高さおよそ2m、幅も2mほどあった。
「でも何もなさそうだな・・ただの橋の残骸としか見えないな・・」
レナードがルカと橋を周囲を掘り進めて色々と調査したが何も見つからなかった。
「うーん・・開けゴマ!」
苦し紛れにルカが定番の呪文を唱えてみたが効果はなかった。と、上から笑い声が聞こえてきた。
「ルカ! 面白そうな事してるね!」ダイアナが石橋の上から手を振っていた。
「こっちは危ないから来ない方がいいぞ」崖下に降りてこようとするダイアナに向かってルカが釘を刺した。
「女に戻るのはいい事ばかりじゃないのね・・私も参加したかったのに」ルカに止められた彼女は橋にしゃがみ込んで仕方なく様子を伺った。
「ルカ、やっぱり見当違いだったのかもしれない。今日はここまでにして、明日は城に近い方から元の石橋の基礎を調べてみよう」
ルカもレナードの意見に賛成して水から上がろうとした時だった。レナードが蔦切用に持っていた園芸ハサミを落としてしまったのだ。
「あ、しまった」
「俺が拾うよ」
肘まで水に浸かりながら手探りでハサミを探していたルカは「あった!」と声を上げた。
ハサミを掴み水底から引き揚げようとするが何かに引っかかった様で、ルカは腕を前後に強く動かしていた。
「あれ・・おかしいな」
苦戦するルカを見てレナードも水の中に腕を突っ込んだ。
すると突然ガタン! ゴンゴンゴンゴン・・大きな音がして目の前の石橋の基礎がゆっくりと水の中へ沈んで行った。正確には基礎の壁の部分だ。その奥には狭い通路が伸びているのが見えた。
「これは・・やったぞ! やっぱり秘密の通路があったんだ!」いつも冷静なレナードが興奮して叫んだ。
ルカも中を少し覗き込んだが「暗いな、明かりを取ってこないといけないな」と顔を引っ込めた。
橋の上から見ていたダイアナが「私が取ってくるわ!」と城に駆け戻って行った。
ダイアナを待つ間、もう一度ルカは水の中に腕を入れて石橋の下の方を探ってみた。するとハサミの持ち手が石の突起に引っ掛かっていたた。ハサミを突起からはずし、突起を力いっぱい押してみた。
またガタン、と音がして今度は壁が下から上がってきて通路を隠してしまった。
「うん、どうやるか分かったかもしれない」
ルカがレナードに説明しているとダイアナが戻ってきた。
精霊石の入ったランタンを2つ紐で下まで下ろして貰い、再び石壁を下げて二人は奥へと続く通路に足を踏み入れた。




