ダイアナ
「彼女は本当にダンだよ」
レナードがまず口を切った。その口元は喜びでほころんでいた。
ロージアン家に掛けられた呪いとは、ロージアンの血を引く直系の女性が10歳になると男子に変わってしまうというものだったのだ。
「ダイアナの呪いは解けたから話しても大丈夫だと思うけど、ルカとパイは他の誰にも話してはだめだよ。ロージアン家に掛けられた呪い自体が解けた訳じゃないから、危険だからね」
呪いの内容を口外出来ない為、どうやったらダイアナの呪いが解けるかは誰も分からなかったそうだ。
過去に呪いが解けた事例はあったが、何が呪いを解くカギだったのか明記したり、口伝できなかった為らしい。
「そうか、自分の娘を奪われたからロージアン家に女子が生まれたらそれを奪うという形の呪いだったんだな」
「命を奪われるんじゃないからまだ優しいもの?」
パイはそう言ったがルカは頭を振った。
「いや、外見だけ男になって中身は女性のままだぞ。もしかしたら死ぬより辛いかもしれない」
「ルカの言う通りだよ。ロージアン家の歴史の中で呪われてしまった子女が何人かいたんだけど、ほとんどは精神を病んで早くに死んでしまったんだ。二人だけ呪いが解けたけど、一人は女性になった途端に恋人から捨てられて自殺してしまった。もう一人は呪いが解けた後も長生きしたみたいだけど」
「親としては男の子になっても生きていてくれる事のほうが嬉しいと思うがね。でも本人の苦しみを思うと胸が張り裂けそうだったよ」ロージアン卿がしみじみと言った。
それからはなるべく女子が生まれない様に、男子が多い家系の女性をロージアン家の妻に迎えるようにという家訓が作られたらしかった。
「私はそれを無視してね。どうしてもエマと結婚したくて彼女が3姉妹の長女であったのに妻に迎えてしまったんだよ。その上一人目が男子だった事に気を良くして二人目の子供を望んでしまった」
ロージアン卿はしょんぼりしながら罪の告白をするように話した。
「もしかして10歳で男の子に変化した時もダンはあんなに苦しんだの?」
「そうだな。だが子供で体がまだ小さく、成熟する前だったせいかこんなには長引かなかったな。半日ほどだった」
「でも呪いが解けて本当に良かった。ダンが倒れた夜、何があったんだい?」レナードはルカに問いかけた。
自分とダンのラブシーンを話さなくてはいけなくなったルカは大汗をかいた・・。
(とりあえず、俺の気持ちをダンに告白したって言って、それから・・キスしたって言わなきゃダメか??)
「ああ! そうだったのか。ダイアナは呪いも解けて恋も成就していい事づくめだな!」
パイもロージアン卿も照れまくるルカの様子を面白がって見ていた。するとドアが開いてエレンが入って来た。
「遅くなりましたがお茶をお持ちしました」
エレンは顔が紅潮してやけに興奮しているようだった。
「それと・・・どうぞお嬢様」
エレンが脇によけると綺麗に着飾ったダイアナがエマ夫人と共に入って来た。
「わぁ~すっごい綺麗!」パイは手を叩いてダイアナを迎えた。
再びエマは自分の芸術作品を自慢し始めた。まるで新商品を売り込む営業マンだ。
「お嬢様用のドレスの用意がなかったので奥様のドレスをお借りしました。色白のお嬢様は何色を着てもお似合いで、私もこんなにドレス選びに迷ったのは初めてです! それからお嬢様の御髪はとても細くて繊細で・・でも自然とカールがかかる巻き毛ですので下手に小細工するより控えめなアクセサリーが似合うと思いましたの! ドレスは少し窮屈な部分もあるかと思いますが、私が後ほどお嬢様のドレス選びにお付き合いいたしますから全てお任せください!」
「なんだか女装した時より恥ずかしい・・」
恥じらうダン、もといダイアナはその名にふさわしく女神の様に美しかった。
「ほらルカもボーっと見とれてないで何か言ってあげなさいよ!」
文字通りボーっと見とれていたルカはパイに促されて生返事で返した。
「あ、ああ。うん、美味そうだ」
「ルカ!!」
その場の空気が氷付いたのは言うまでもない・・。




