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ルカとロージアン卿


「はぁ~い、何ですか?」


 部屋からは呑気そうなパイの返事が返ってきた。


「パイ、ダンが、ダンの様子がおかしいんだ。早く来てくれ!」


 ルカの慌てた様子に驚いたパイは、ルカのベッドに寝ているダンを見てもっと驚いた。


「ルカ・・ダンと・・ベッドで何してたのよ・・」

「そこじゃないだろ! 突然苦しみだしたからベッドに運んだんだよ!」


「今日は新月じゃないよ・・なんで??」苦しみ悶えるダンを見てパイは狼狽えた。

「それに聞こえるか? この音」


「聞こえる・・軋むような・・あたし誰か呼んでくる」



 突風の様に出て行ったパイが連れてきたのはレナードだった。


「これは・・ダン、ダン?」


 レナード声をかけたが苦しむダンには聞こえていないのか反応が全くなかった。階下から物音を聞きつけて心配そうにエレンが上がってきた。


「あの・・お医者様を呼んできましょうか?」

「そうしてくれ、エレン。急い・・」


 ルカが言いかけるとレナードがそれを制した。


「待ってくれルカ。父さんと母さんを呼んでくるから。エレンは戻って大丈夫だよ」

「ですが・・レナードさま、本当に大丈夫ですか?」


「心配だろうけどここは俺に任せてくれ」


 エレンと部屋を出たレナードは両親を連れてすぐ戻ってきた。


「ダニエル!」エマ夫人はベッドに駆け寄りダンの額に手を当てた。


「父さん、ダンは・・」母の後ろから心配そうにダンを見下ろした後、レナードは父に向き直って言った。自分の予想は間違っていないと父に肯定してほしかった。


「ああ、お前の考えてる通りだと思うぞ」


 険しい表情で息子の予想を肯定したロージアン卿は妻に頷いて見せた。


「みなさん、ここは私がダンに付いています。ルカには別の部屋を用意しますわ。ですから二人きりにさせてください」


 エマ夫人は有無を言わさぬ毅然とした態度でルカ達を部屋からしめ出した。


「ロージアン卿、医者は? 見てもらった方がいいと思いますが!」

「あんなに苦しんでるのに、どうして? ねえレナード!」


 パイもルカも家族の判断に疑問を抱いた。だがレナードもその父も頑としてそれ以上は何も言おうとしなかった。


「パイ、ここは黙って俺たち家族の言う通りにしてほしいんだ。ルカも、ダンを心配してくれてありがとう。でもここは任せて欲しい」



 仕方なくダンは一旦パイの部屋に引き上げた。


「ルカってば部屋で何してたの? 暖炉に火が入っていたし変な匂いがしてたよ」


 まだ動揺が収まらないルカだったが、部屋での出来事をパイに説明した。


「おやまあ! お互い思いが通じて良かったじゃないって、それどころじゃないわね・・」

「泉の精霊は何か言ってなかったか? 新月以外にも何か痛みが出る条件があるとか?」


「何も言ってなかったわ・・それにどうしてレナードはお医者を呼ばないのかな?」

「それは俺も思ったよ。あんなに弟を大切にしてるレナードが医者を呼ばないなんて。トッドの呪いの事は知らないんだろう?」


「知らないはずだよ。ロッシとあたしとルカとダンしか知らないはず・・」

「呪いのせいだと思ってるなら医者を呼ばない理由も分かるんだが・・」


「でも知ってもさ、呪いのせいじゃないかもしれないんだから、とりあえず医者に診てもらおうとか思うよね?」


「うぅん・・。家族は何か知ってる風だったな。トッドの呪いじゃなくロージアン家の呪いと関係があるのかもしれない。明日また聞き出してみる」


 二人であれこれ考えてみたが、とりあえずはルカがロージアン卿ともう一度話してみるということで落ち着いた。


 エマ夫人に用意された新しい部屋でルカはベッドに横になった。春の強い風が古びた窓枠をガタガタと揺らしルカの不安を煽っていた。




 翌日もダンの容態に変わりはなかった。


 レナードは仕事へ、エマ夫人の代わりにロージアン卿がダンに付き添っていた。

 

 ルカのベッドに横たわる美しいダンの顔は痛みに歪み、別人の様に見えた。

 部屋に入って来たルカに気づいたロージアン卿は椅子を進めてルカと向かい合った。


「昨日、何があったか話してくれるかな?」


 ルカは昨夜の出来事だけでなく、これまでの経緯を簡単に説明した。


「そうか、正直に話してくれてありがとう。それで・・君はダニエルを心から好きだと思えるのかい?」


 ロージアン卿にこれまでの経緯を説明しながらルカは今までの出来事を思い返していた。そして改めて自分の気持ちを手に取るように理解したルカは躊躇うことなく返事ができた。


「俺は、その・・今まで恋愛経験が無かったわけじゃないですが・・誰かを真剣に愛した事は無かったんです」


 ふとそこで言葉を切ったルカは首を振った。


「いや、人を心から信頼するのが怖かったのかもしれません。母と俺を捨てて消えた父さん。母さんもニッパーの能力が発現した俺を化け物でも見るような目で見て、俺を捨てていなくなって。・・本気で人を愛してもまた捨てられて傷付くのが怖くて、臆病なだけだったのかも・・」


「息子は君を見捨てたりしないと?」

「いえ。・・捨てられても傷付いても構わないと、いつか別れる日が来たとしても彼を好きになった事を後悔しないだろうと確信したんです」


 ロージアン卿はうっすらと涙を浮かべてルカの手を握った。


「君の気持ちがきっとダンを支えてくれると信じておるよ。ありがとうルカ」



 そしてその夜、今度はルカがダンに付き添うと買って出た。


 






 

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