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ダンの異変


 石橋の調査にはパイとルカとレナードが名乗りを上げた。


 前回の水の精霊の女王とのやり取りを聞いたレナードは必要以上にダンを危険から遠ざけようとして、ダンには蒸留所での仕事を頼んだらしかった。


 今回は力仕事になるのでジュードの手も借りることになった。


 資料にあった挿絵を元に元の石橋があった辺りをつるはしで掘ってみたがみたが手ごたえはなかった。

 上からは諦めて下から探しましょう、とジュードに提案されたルカ達は膝上まで水に浸かりながら崖を掘り進めた。


 2mも行かないうちに目当ての物にたどり着いた。石橋のアーチが上半分壊れた状態で出てきたのだ。アーチの上部分は既に無くなっていて上からは見つからなかったのだ。


 土をどけ、絡みついた木の根を剥がすとしっかりした土台が見えてきた。


「すっかり暗くなったな。今日はここまでだな」

「ジュードすまなかったね、余計な仕事をしてもらって。明日からは俺たちだけで大丈夫みたいだ」


 ルカとレナードはジュードを労って城に引き上げた。


「はぁ~普段力仕事なんてしないから、疲れたよ。今日はよく眠れそうだ!」夕食後レナードは肩を回しながら早々に自室に戻って行った。


 


「ダン、今日の石橋の件で報告があるから俺の部屋に来てくれるか?」


それぞれ自分の部屋に引き上げようとしているとルカがダンを呼び止めた。


「うん、分かった」ダンがルカについて部屋に入ると暖炉に火が入っていた。


「あれ火が入ってるね。もしかしてこの部屋、寒い?」

「うん、いやぁ・・これはちょっとした・・再現で・・」


 珍しく歯切れの悪いルカはきまり悪そうに頭を掻きながら暖炉の前まで行った。ダンを手招くと用意した物を見せた。


「???・・何これ? 人参、じゃがいも・・干した魚・・何かのおまじないなの?」


 ダンが串に刺さった野菜を見ていると暖炉の脇からルカが取り出した物は腕位の太さにまとめられた藁束だった。


「石橋の件はただの口実だったんだ・・それで、これをこうやって・・」


 藁束に串刺しにした野菜や干した魚を刺していったルカはそれを暖炉の火にくべた。


「あ! それ豊穣祈願祭の!」


 ダンが思い当たった所でルカは仰々しい仕草で手を差し出した。


「では・・音楽がないが踊って頂けますか?」


 驚き、一瞬ためらったがダンはルカの手を取った。


「ダン・・この間も言ったがあれは同情なんかじゃないぞ。確かに俺は男に興味はないと前に言ったが・・」そう話し始めたルカはいつになく真面目な顔をしている。


(ルカは何を言いたいんだろう・・同情でなきゃ何? どうして祈願祭を再現するんだ・・)


 豊穣祈願祭の時のルカの背中を思い出していたダンは不安が胸をよぎるのを感じていた。バイオレットにキスしてたルカの後姿・・・。もうこれ以上傷付きたくないのに、ルカは何を言おうとしているのだろう。


「えーとだから俺が言いたいのは・・俺もお前が好きだって事だよ!」


「えっ!?」


 あまりにも予想外の言葉にダンは立ち止まって唖然とルカの顔を見た。

 照れ臭そうに横を向くルカは、友達として弟として好きという表情ではなかった・・。


「と、突然どうしてそんなこと言うの・・男に興味ないって、弟みたいに思ってるって・・」


 急に鼓動を速めた心臓を落ち着かせようと胸を抑えながらダンはルカを見た。


「突然って訳じゃないんだ。なんというか・・」

「なんというか?」


「パイの為に蒸留所で恥ずかしいダンスを一緒に踊ったり、 警護の夜は暖かい差し入れを届ける為に馬をめちゃくちゃ走らせたり。 それに、俺とは友達だとか言いながらバイオレットにしっかり嫉妬してたり・・そんなお前がいじらしくて、さ」


 自分にとっては恥ずかしい行動を並べられだダンは真っ赤になってルカの手を放そうとした。


 だがルカはダンを離さなかった。ダンを引き寄せその戸惑う唇にキスをした。


「同情だけで男にキスは出来ないな。それにもう男とか女とかどうでもいいんだ。気が付いたら俺はお前を好きになってた」ダンを抱きしめながらルカの手は優しくダンの髪を撫でた。


 ルカの偽りのない気持ちは今度こそ通じたようだった。

 ダンはあまりにも嬉しくてまた泣いてしまいそうだったし、目には涙が溢れて今にも零れ落ちそうだ。

 

「あ、それと! 俺はヴァイオレットと付き合ってないぞ。祭りの時俺がバイオレットにしたキスは頬にだし。ヴァイオレットの気持ちには応えられないと断ったから決別の印だな・・」


「うん、うん・・・・ルカ!」(ルカが僕を好きになってくれた・・信じられない。これは夢なの? 夢ならどうか覚めないで!)


 ダンはルカの首に抱きついた。嬉しくて・・言葉が出てこない。だがもう二人に言葉は必要なかった。

 ダンを見つめるルカの瞳にはその思いが揺らめいていたし、熱く交わすキスで十分お互いの気持ちが通じたから。


 どれくらいキスしていただろう、突然ダンの膝に激痛が走りガクンとダンの体が傾いた。


「うぅっ」


 パキン! とダンの体のどこかで音がした。


「ダン! ど、どうした?!」腕の中からくずおれて行くダンをルカは慌てて支えた。

「あ、あ、ル・・カ・・うわっっ」


 体をふたつに折る様に屈みこんだダンは苦痛に呻いた。

 

 ルカはすぐダンを抱えて自分のベッドに寝かせた。その間もずっとダンの体から軋むような音が聞こえ続けていた。


「どういうことだ今日は新月じゃないぞ・・トッドの呪いのせいなのか?・・どうしたらいいんだ?!」


 ルカは真っ蒼になりながら部屋を出て助けを求めにパイの部屋のドアを叩いた。










 




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