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黄金の瞳のルカと精霊の呪い  作者: 山口三


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幸福なジョージ


 襲い来る津波から二人は全速力で逃げた。


 城に繋がるスロープ目指して駆けあがり半分まで来た所で波が追い付いた。後ろを走っていたダンが波に足をすくわれ、引いていく波に引きずりこまれる。


「ルカーー!」

「ダン、摑まれー!」


 ルカの黄金のロープがダンの右腕に絡みついた。ダンはすかさず左手でロープを強く掴んだ。

 ルカの瞳が黄金色に激しく輝くと、ロープを力強く引き戻し波からダンを引き上げる事に成功した。

 ダンの近くにあった低木はことごとく根ごと引き抜かれ、波に飲まれて湖に流されて行った。


「はぁはぁ・・た、助かった・・」ダンはその場で仰向けに寝転がった。


「危なかった・・」


 ルカもダンの隣に仰向けになった。

 隣に寝転がったルカを見てダンはふふっと笑った。


「びしょ濡れだね」

「この城に初めて来たとき、水の精霊の女王に会った時、で、今回。よく頭から濡れるよ俺たちは」

「ほんとだ」


 二人はお腹を抱えて笑い合った。


「はーーお腹痛い。さっきまで波にさらわれて死にそうだったのに」


 まだ仰向けで笑っているダンに覆いかぶさるようにルカの顔がダンを覗いた。


「お前・・この間の額の傷はどうなった?」


「えっ、額の傷?」


 急に真顔になって上から自分を見つめてくるルカにダンの心臓は早鐘のようにどきどきと鳴った。


「あ、あの、ちょっとルカ?」


 ルカの指がそっとダンの前髪をかき分けた。


「少し跡になってるな」ルカの唇がやさしくその傷跡に触れた。


 顔を真っ赤にしてダンはルカを押しのけ、起き上がった。


「ル、ルカ!? 今日のルカはおかしいよ!」

「別におかしくないぞ、俺は・・」


 真っ赤な顔から一転、悲痛な表情でダンはルカの言葉を遮った。


「僕が呪いの身代わりになったからってこんな事しなくていいよ! 確かに僕はまだルカの事が好きだけど、こんな風に・・無理しなくていいよ!」


「俺は無理してる訳じゃない」

「無理してるよ! ルカはバイオレットと付き合ってるんでしょ?・・は・はーーーーくしょん!!」


 夕暮れが迫って来てびしょ濡れの二人はガタガタと震え始めた。


「と、とにかく城へ戻ろう。着替えて・・またそれからだ」



____



「まぁ~お二人ともどうされたのですか?」


 エレンが戻った二人を見て目を丸くした。後ろからシーツを抱えた執事のジョージが現れ、当然だといったようにエレンを呆れた顔で見て言った。


「湖で泳いでいらしたに決まってるだろう、夕食の前にお風呂を用意して差し上げなさいエレン」


 そしてシーツを二人にそれぞれ手渡して「お嬢様、まずはこれで髪を拭いてください」


 そしてスタスタとキッチンに入って行ってしまった。


「エレン・・見間違いじゃなければこれは・・シーツだよね? シーツで髪を拭くの?」ルカは手渡されたシーツをまじまじと見ていた。


「泳いできたっていうのも・・服を着たまま泳ぐわけないしな」ダンも唖然とジョージの後姿を見送っていた。


「シーツは私があるべき場所に戻しておきます! ダニエル様たちは着替えてお風呂をお待ちになっていてください!」


 エレンはきっぱりと宣言し、二人からシーツを受け取りきびきびと風呂の用意をしに行った。


_____



「ふぁ~~生き返る!」


 エレンが用意した風呂の湯加減は最高だった。


 シャワーではなく浴槽のように沢山の水を温める場合は金網の中に入れた火の精霊石を浴槽に入れるのだが長い時間入れすぎると熱すぎて水を足さなくてはいけなくなる。

 まあ途中で冷めてまた精霊石を入れなおすよりはましだが・・。


(しかし・・ダンは誤解しているな。同情とかそういうつもりであんなことをした訳じゃないんだが・・きちんと説明すれば分かってくれるだろうか?)



 夕食の席でもダンはむっつりと言葉少なだった。食事が終わると各々調べた事を報告することになっていたが、ダンはレナードにその役目を託して早々に自室に帰ってしまった。


「あれ、ダンは?」

「今日は寝るって言って部屋に戻ったよ」図書館から借りてきた資料を広げたレナードが言った。


「夕食の時も静かだったものね。あ! そっか明日はし・」

「し?」


(あぶあぶあぶ・・レナードの前で新月って言っちゃうところだった)


「えっと、し、し、城の城の・・」

「城の地下に置いて来たチェストを取りにくんだよな?」ルカが助け舟を出した。


「う、うん。ほら花嫁衣裳が入ったやつ!」


(わっ、それは今日波にさらわれて紛失しちゃったんだよパイ・・)


「あーパイ! それは明日じゃなくてもいいさ!」


 しどろもどろになった二人を訝し気に思いながらレナードは石橋の件を話した。








 






 


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