ポールの提案
「ダニエル、君は僕を煽るのが上手いね。こんなに体が熱くなってるのにじらすなんて」
ポールはダンの首筋にキスしながらシャツのボタンをひとつひとつ外していった。
(体が熱いのは熱があるからなのに!)
ダンは必死に体をよじって抵抗したが、かえってポールを喜ばせただけだった。
「ねえダニエル、さっきの話。なぜ僕がここの改修工事を知っていたか。それはね僕がこの城を買い取るからだよ」
「えっ!」
「実は僕もこの美しい城が欲しかったんだ。僕は美しいものが大好きでね。君の父上は成り上がりのエルク家に売るくらいなら僕に売ると承諾してくれたのさ。改修費用は僕が出してる。・・それで提案なんだが、僕はこの城と君も欲しい。君が僕の物になってくれたら君の家族はこのままこの城に住んでいて構わないよ。ね、悪くない提案でしょ?」
ダンの頭は真っ白になった。ただでさえ熱にうなされボーっとしている頭に色んな情報を一気に流しこまれ、そしてこの状況。体が思うように動かないのにどうやってポールから逃げよう?
(父さんが城を売った? ポールに? あんなにこの城を大切に思っている父さんが?!)
シャツのボタンはもう最後のひとつだった。
「ポール! やめて!」
ダンは必死に声を振り絞った。
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「あっ」
まだキッチンで夕食の手伝いをしていたパイがふと顔を上げた。
(あれ・・今ダンの声が聞こえたような気がしたけど・・)
キッチンから出て猫耳を出現させ、耳をパタパタさせながらパイはウロウロ歩いてみた。
(やっぱり聞こえる! 嫌がってる・・大変だ!)
「ルカ! どこ~~、ルーーーカーーー!!」
夕食前にレナードとウイシュケを1杯やっていたルカはパイの大声にびっくりして居間から出てきた。
「どうしたんだパイ?」
「わかんないけど、ダンの危機だよ!」
パイはルカの手を引っ張って声が聞こえた方向に走った。
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最後のボタンが外されダンの上半身が露わになった。
必死に持ち上げた腕もポールに軽々と押さえ付けられダンには成す術がなかった。
ポールの唇がまたダンに触れようとした時、肩をぐいっと摑まれポールはダンから引き剥がされてしまった。
「お帰りはこちらです」
怒りに満ちた顔でルカはポールを見下ろしている。そしてその手は戸口を指していた。
床に尻餅をついたポールは振り返ってギロっとルカを睨み付けた。そのまま何事も無かったように立ち上がると、さも軽蔑するような目でルカとパイを見た。
「人の恋路を邪魔するなんて無粋な人達だな」
「ダンは嫌がってたよ!」
「ふん、まあいいさ。最後にはダンは僕を選ぶよ。僕はダンが好きだし彼が望むものは何でも与えてやれる。この城だってそうだからね」ポールは優雅な仕草で自分の服の埃を払った。
「なんだと!?」
「ここで君たちと言い争う気はないな。それよりダニエルを見てあげてよ、彼本当に具合が悪いみたい」
ポールの言葉にパイはハッとした。そしてポールの脇をすり抜けダンの傍に向かった。
「愛しいダニエル、また来るよ。さっきの話、考えておいてくれ」
ポールはぺろりと唇を舐めながらルカと視線を合わせて笑った。「胸くそ悪いやつだ」ポールが去ったのを見てルカもダンが座っている長椅子の前に膝をついた。
ダンは呼吸が浅くなって苦痛に顔を歪ませていた。
「どうしたんだ? 風邪でもひいたのか?」ダンを隠すように背中を向けるパイの後ろから覗き込んだルカはダンの様子に驚いて言った。
パイは必死にダンのシャツのボタンを留めようとしている。
(ルカに見られたらバレちゃう・・ルカには秘密にするってダンと約束したのに・・)
「う、うん。風邪だと思うよ。熱があるから早く部屋に運んであげようよ」
「パイ、何やってるんだ? ボタンなんか放っておけ」
ルカが肩を貸してダンを立ち上げらせようとしたが、傷が転移した側だったダンは痛みに呻いた。
「うぅっ」
尋常ではない痛がり様にルカは驚いてダンを長椅子に戻した。
「何かされたのか? 見せてみろ」
「あっ、ダメ! ルカ!」
パイが止めるより先にルカの手がダンのシャツをはだけさせた。そこにはルカがかじられた肩と同じように歯型と赤いみみず腫れが脈を打っていた。
「これは・・一体どういうことだ!?」
(ああああ、どうしよう・・ルカ、怒ってる・・あたし怒られちゃう?)
「あの、ダンを部屋に連れて行ってから・・その・・」
「分かった、説明してもらうぞ」
今度は反対側の肩に腕を回してなんとかダンを部屋まで連れて行って寝かせたルカは自分の部屋にパイを呼んだ。




