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黄金の瞳のルカと精霊の呪い  作者: 山口三


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春の豊穣祈願祭


 ルカが以前調査したロージアン家の家系図では、アラン・ロージアンは5代前の先祖で伯爵家を継ぐ長男だったがある時行方不明になり、その弟カラド・ロージアンが爵位を継承。

 今のロージアン家の人々はその弟の子孫となっている。


「このご先祖様が水の精霊の娘に何かやらかして精霊の怒りを買ったわけですな・・」


「先代のアランは精霊の呪いで死んだわけじゃないんだね?」家系図を見ながらレナードが言った。


「君のお父上を見た時、精霊は先代のアランと勘違いしていたからね。アランの行方が分からなくなっていて、精霊の怒りの矛先が子孫に向かったんだろうな」


「しかし400年以上も前に何があったかなんてどうやって調べたらいいものか・・」


(他の精霊はその当時の事を知っているかもしれない。だがあの水の精霊は女王だ。普通の精霊とは格が違う。他の精霊は彼女を恐れて詳しい事は話さないだろうな。余程の事がない限り精霊同士は不干渉とも言っていたし・・)


 そこで3人は静まり返ってしまった。


「父さんって、日記を付けていなかったっけ?」

「ああ、毎日ではないがね」


「おっ、そうだねレナード! ご先祖様の中にも日記を付けていた人が誰かしらいるだろう!」

「ご先祖様の持ち物の類は北の地下に置いたままなのだよ・・」


「立ち入り禁止にしている区域ですか・・」


(確かにあそこは危険だな。前はダンのおかげで何事もなかったが・・)


 ロージアン卿はいつになく厳しい表情で何かを決断したようだった。


「北の区域を改修しよう! 危険が無くなる程度にだけ改修して日記を探すんだ」

「えっ、父さんそれは・・かなり費用がかかるんじゃ」


「呪いを解くのが先決だ。背に腹は代えられんよ」


 


 そうしてロージアン卿はどこからお金を工面してきたのか、北の区域の改修工事が始まった。

 

 北の区域の改修工事は時間がかかった。危険を回避しながら慎重に工事を進めているためだった。

 


______



 

 世の中はすっかり春になりアルバの街では豊穣祈願祭が始まった。


 以前に言われていたようにルカも祭りの警備に駆り出された。5日間に渡る祭りの間、前半の3日をルカとパイが担当した。パイは主に夜の警備に当たっていた。


 昼は出店が立ち並び大道芸人も訪れて祭りを盛り上げた。


 祭りの初日にアルバ街にある中央広場に(わら)で作られた巨大な柱が立てられる。

 

 祭りの期間中この藁に豊穣を祈願して穀物の穂や野菜を串に刺したもの、干し肉、魚の燻製などが刺されていく。街を訪れる観光客も願い事を書く紙を買い求め、それを藁に刺すのがこの祭りの目玉になっていた。


 そして祭りの最終日の夜、この藁に火をつけその明かりの元、火の周りで人々はダンスを踊る。

 ここでダンスを踊って愛を誓ったカップルは必ず結ばれるという言い伝えがあった。


 ゆえに最終日は物凄い混雑となるのがこの祭りの常だった。




「なーんだかさぁ、みんなカップルでムカつくんだけど!」


 パイもルカも最終日は休みで祭りに参加した。ルカは祭り見物に来ていたバイオレットと、レナードはフランシスと。ダンはマリーナを連れていた。


 そして最終日の今日は見事なまでに、この中央広場はカップルだらけだった。


「ごめんねパイ、わたしが割り込んじゃったみたいね」ちゃっかりルカと腕を組んだヴァイオレットが申し訳なさそうにパイに謝った。


(その割に帰るつもりはなさそうだけど・・)少し不機嫌なパイは内心そう思っていた。


「いいけど。どうせルカはあたしよりバイオレットの方がいいだろうし」


 パイは自分も誰かパートナーを探してくると言っていなくなってしまった。


 

 夜が更けてくると藁の柱に火がともされた。首都から来た楽団がアップテンポの楽しい曲の演奏を始めた。このダンスに決まりはない。みんな思い思いに体を動かし楽しそうに踊っていた。


 レナードとフランシスは既に踊り始めていた。二人の目にはお互いしか映っておらず深く愛し合っているのがはた目にも分かった。


「姉さん達に負けないで、私たちも踊りましょう!」


 マリーナがダンの手を引っ張った。ダンは少し苦笑しながらマリーナに従っていた。


「もれなく俺たちも、だろ?」ルカはバイオレットの手を取った。


「流石大人の男は話が早いわ」



 柱の炎が下火になってくると曲はスローテンポに変わった。

 カップルは体を寄せ合い、下火になった炎の代わりに熱気を放っていた。


「ねえ、ルカはロージアン家の依頼が終わったら自分の国へ帰るのかしら?」

「そうだな。まったく終わりが見えないが・・ロッシが待ってるしな」


「ロッシと一緒にこの国へ越して来たら? 私ずっとあなたと一緒にいたいわ」


 バイオレットの手がルカの頬に触れ、指が唇をなぞった。


「あんたは素敵な女性だ。だから俺なんてやめたほうがいい。俺は・・一人の女と長続きしたことがないし、その気もない」


 バイオレットの手をそっと離したルカはその頬に軽くキスした。


「友情のキスって感じね。ま、いいわ。そのうち気が変わるかもしれないし」


 

 ルカの後方でダンとマリーナは踊っていた。

 ダンの目には、ルカからバイオレットにキスしたようにしか見えていなかった。


「ねえダン、ねえってば」

「あ、何?」

「もう、ダンっていつも上の空なんだから。姉さん達みたいに私たちも付き合いましょうよって言ったの」

「あ・・マリーナごめん・・ぼ」


 ダンの表情を見てマリーナはその先を言わせなかった。


「いいの。ダンは私の事なんて何とも思ってないって分かってたから。でも付き合ったら少しは好きになって貰えるかもしれないって思っただけだから」


(そう、ずっと分かってたけど・・もしかしたらっていう期待を捨てられなかっただけ・・)



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