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呪いを解く方法


 バイオレットは3日おきにルカの様子を見に来ていた。

 ダンに言われたようにリンゴの古木の傍に来るとリンゴの精霊が現れ、良く熟れたリンゴをバイオレットに手渡して行った。


 今のルカはそのリンゴのおかげで持っているようなものだった。


「バイオレット、すまないな。あんたも自分の仕事があるだろうに」

「あら水臭いわね。これくらいで恩を着せようなんて思ってないわよ。それにしてもルカって精霊に愛されてるって感じるわ」


「そうか?」

「ええ、リンゴの精霊は、行くと必ずリンゴを授けてくれるし・・。パイやダンの話を聞くと思うのよ。ま、あなたを愛してるのは精霊だけじゃないけどね」

 

 ポツリと呟いたバイオレットはルカの頬に軽くキスして言った。


「また来るわ! それまでいい子にしててちょうだい」


 

 ふぅ~と大きく息を吐き、ルカはベッドに体を投げ出した。


(体を動かすのもやっとだ・・まるで自分の体じゃないみたいだな。痛みもひどくなってる・・)


 自分とは正反対に生き生きとしたバイオレットがルカには眩しかった。



_____



 2週間が過ぎた。こんなに月日が経つのを遅く感じたことはないとダンは思った。

 聖なる泉に集まった3人は精霊を待ちわびていた。


「来たっ!」


 前回と同じく水音と共に現れた精霊の姿を認めたパイはロッシとダンにそれを知らせた。


「さて、前回と顔ぶれは同じ。しかしこの泉に入るのは一人だけだ」


 パイたちは顔を見合わせた・・どういう事だろう?


「良く聞きなさい。ロアの呪いを解くことは不可能。なぜならそれは呪いではなく彼の怨念だから」

「えっ、でもここに来ればルカは助かるって!」


 ダンを睨み付けながら精霊は言葉を続けた。


「最後まで聞きなさい。ここでは聖なる泉に映った満月を通してルカについた怨念を転移させることが出来るのです」


「もしかして・・転移されたほうは死んじゃうとか?」パイは恐る恐る聞いた。


「いいえ、ロアが恨んでいるのはルカだから死にはしないわ。でも月の加護が消える新月の夜は痛みに苦しむことでしょう。一生ね」


 重ぐるしい沈黙が訪れた。ルカは助かるけど・・この中の誰かが・・


「さあ、一人だけです。泉の中に入りなさい」


 真っ先にダンが噴水に入ろうとした。それをロッシが手を掛けて止めに入った。


「あんたはまだ若い、これから一生呪いを抱えて生きていくのは大変だぞ。その点俺ならこの中の誰より早く逝くだろう。そしてパイはこれからお母さんと一緒にいてあげなきゃいかん」


「ロッシさん、ルカは僕の大切な友達なんだ。それにあなたはルカの大事な人だ。あなたがいなければ今の自分はなかったって、ルカが言ってました。そのあなたが自分の身代わりになったと知ったらルカは自分を許せないと思います。ルカにそんな思いをさせたくないんです」


 ダンの決意は固かった。ルカが死ぬくらいなら自分が代わりたかったと、ルカのやつれた顔を見たあの日痛いほど思ったのだから。


「それに・・僕はいいんです」


「ダンってば何がいいのよ?!」


「パイ・・いつか分かるから。ね?」


 パイもロッシもダンを止められなかった。


 ダンが靴を脱いで噴水の中に入って行くと浅いはずの噴水の中央が急に深くなった。冷たいはずの噴水の水は冷たくも暖かくもなく、質感すら感じさせずにダンを包み込んだ。ダンは音もなくその深みに飲み込まれて行った。

 ダンを飲み込んだ水面はすぐ何事も無かったようにおだやかになり、そこへ満月の光が差し込んだ。満月を移した水面は一瞬青白く輝いた。


 ザバァァッ


 水しぶきと共にダンが再び現れた。


「これでルカは良くなるでしょう。・・人間は愚かな生き物。でもその愛は尊いものね」


 精霊はやはり無表情のまま続けた。


「新月に出る痛みは普通の薬では効きません。これをあげましょう。痛みが少し和らぐはずです。私があげられるのは1度だけ。大切に飲みなさい」


 噴水の中で呆然と突っ立っているダンの手に何か液体の入った小瓶を握らせ、精霊は消えた。


「ダン! 大丈夫だった?」

「今は・・大丈夫みたいだ」


 ダンは頭からずぶ濡れになったが特別体に異常はないようだった。


「帰ってすぐシャワーにしよう。春とはいえ夜は冷えるからな」


 ずぶ濡れで歩くダン、ダンの靴を持って歩くロッシ。

 通り過ぎる人は何事か? と振り返って彼らを見ていた。

 


 


 


 

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