ビタリへ
「そこら辺の泉の精霊じゃロアの呪いは解けないよ。世界に7つだけ聖なる泉ってのがあってさ。その精霊に頼まないといけないのさ」
泉の精霊の話によると、アルパル王国から最も近い聖なる泉はなんとビタリ国にあった。
ルカが聖なる泉に行く必要は無く、誰かがお願いしに行けばいいと彼は言っていた。
「でも何か貢物とかを持っていかないとだめとか?」
「それもいらないみたい」
「ただ行ってお願いするだけで呪いを解いてくれるの?」
「そういう事になるわね」
「なんだか・・簡単過ぎるわね」
いつもの3人での作戦会議だった。
「じゃあすぐ行こうよ。パイは向こうには詳しいんだろう?」
「うん・・でもあたしお金があんまり・・」
「パイの分は私が出してあげるわ。私は治安警備隊の仕事があるからこの国を出るわけにいかないのよ」
「僕とパイが行こう。聖なる泉の場所は分かる?」
嘘みたいに目の前に泉はあった。水の精霊の女王の彫刻が施された噴水。あれは湧水で聖なる泉のひとつだったのだ。
ダンは国外に出るのは初めてだった。ルカのことがなければ楽しい旅行だったかもしれない。
3日近くかけてやっとロッシが待つアパルトマンに二人は到着した。
「ロッシ~ただいま~」
「手紙は読んだぞ、ルカの具合はどうなんだ?・・ってパイか?」
ドアを開けるなりロッシが大声を上げた。ロッシには心配と困惑の表情がありありと浮かんでいる。
パイは変化した事、これが本来の自分の姿だと説明した。
「あの、はじめましてダニエル・ロージアンと言います」
パイの後ろにいる、パイよりはるかに背が高いダンもロッシの目には映っていなかったようだった。
「あ、これは失礼した。俺はロッシ・スチュアートだ。ルカの親みたいなもんだ」
(ルカが話してた通りの人だ・・とても暖かそうな。大きな人だ)
「ロッシ、ルカね・・あんまり良くない。ごめんねロッシ。あたしがアルパル国に行きたいなんて言わなければこんな事にはならなかったのに」
「パイのせいじゃない。それに泉の精霊に頼めばなんとかしてくれるんだろう? ならきっと大丈夫だ」
「過ぎた事を言ってもはじまらんさ。腹は減ってないか? ピザでも焼こうか?」
「うん、ロッシお得意のピザだね。ダン、ロッシのピザを食べたら他のは食べられなくなるよ!」
夜になってから3人で噴水へ行ってみた。ロッシは抱えるほど沢山の酒類を持ってきていた。
「泉の精霊さんよ、酒ならいくらでも差し上げるから助けてくれ」
意外にも泉の精霊はすぐ現れた。彫刻が動いたのではなく、ぽちゃんと水音がしたと思うと目の前に美しい女性が立っていたのだ。
「あなたは泉の精霊、聖なる泉の精霊ですか?」
「いかにも」
パイにしか見えなかったが、無表情のまま精霊は頷いた。白い髪に水色の髪が混じった短髪の精霊の瞳は青く輝いており、近寄りがたい雰囲気をまとっていた。
「友人がロアの呪いに掛かって死にそうなんです。助けてください!」
噴水の中程に水の波紋が出来ている。いつまでも消えないその波紋の上に精霊はいたのだが、それに向かってダンは必死に懇願した。
「満月の夜に再度訪れよ」
それだけ言って精霊はすぐ消えてしまった。
「あっ・・」
「え、もういなくなったのか? お酒欲しいとか言われなかったな・・」
あまりにも一瞬の出来事に3人が呆然としていると、きゃっきゃっと子供の声がしてロッシの手からお酒を持って行ってしまった。
「手が・・冷たい手が酒を持って行ったぞ」
「泉の精霊の・・子供・・かな?」
____
3人はアパルトマンに戻ってきた。
「随分あっさりだったね」
「うん・・現れるのも早かった。びっくりしたな」
「だけど次の満月は2週間も先だぞ・・」
ルカが頑張ってくれることを祈るだけだった。あと2週間、あと2週間だけ・・。