ふたりの水の精霊
季節の風に会った翌日、城で再度パイとバイオレット、ダンが話し合いをした。
ルカの命があとひと月かふた月だと聞いたダンの顔から血の気が引いた。
「しかも呪いを解く方法がないなんて・・」
「ダン、まだ希望はあるよ! 水の精霊に頼れって言われたの」
「水の精霊ね・・ここは湖の前だから探せばきっと会えるはずよ」
「じゃあすぐ探しに行こう!」
ダンは勢いよく椅子から立ち上がった。
だがパイとバイオレットは座ったまま気まずそうにダンを見上げた。
「ダン・・ダンは精霊が見えないでしょ・・」
「!!・・・・そうだったね。ごめん、僕が居ても役に立たないか」
バイオレットが頭を振った。
「いえ、何がきっかけで水の精霊が現れるか分からないわ。一緒に湖へ行ってみましょう」
3人はそれから毎日長い時間を湖やそれに流れ込む川周辺の散策に費やした。
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「精霊ってこんなに見つからないもの??!!」
「水の精霊を探し始めてもう10日が過ぎたね・・」
パイとダンは今日は蒸留所の森のずっと上流まで来てみたが、森の小さな精霊や小鳥の様な可愛らしい妖精には出会ったが水の精霊には会えずにいた。
川べりの大きな石に腰かけたパイは疲れたぁ~~と言って足を投げ出した。
「そろそろお昼にしようか?」
バントリー夫人特製のチキンサンドイッチが今日のお昼だった。パイにはチキンたっぷりでパンも少し焼き目が付けてあった。ダンにはレタスたっぷりでヘルシーなチキンサンド。バントリー夫人は二人の好みを熟知していた。
先に食べ終わったダンが大き目の葉っぱで船を作り、近くに咲いていた野花をひとつ入れて川に流した。
「子供の頃家族でピクニックに来た時、レナードと船を作って競争したんだ」
「今のみたいに?」
「そう。レナードは青い花を入れて青花号、僕は白花号。どちらが沈まずに長く流れ続けるか競争したんだ」
「あっ、それ知ってる! 私達、どっちが先に船を沈めるか競争したもの!」突然どこからか少女らしき可愛らしい声が聞こえてきた。
「「えっ?!」」
ダンはキョロキョロ辺りを見回し、パイはダンの後ろを凝視した。
「い、いた!」
見るからに水の精霊だった。まだ小さな精霊のように見えるが人間よりはるかに長生きだから実際はパイたちより年長だろう。しなやかなガラスで出来た人形のような生き物が、はっと口を押えて水の上に浮かんでいた。
「あっ、あんたが声を出すからバレちゃったじゃないの」
「だって、あの時あたしが白花号に賭けて勝ったはずなのにあんたが・・」
ダンとパイなど眼中にない様子で、小さな精霊二人は向き合って言い争っている。
「あの~お取込み中のようですけど・・」
「「何よ!」」双子の様に二人の息はぴったりだった。
精霊の剣幕にパイは思わず言いかけた言葉を飲みこんでしまった。
「力を貸して欲しいんです。友人を助けたくて!」パイの視線の方向にダンが訴えかけた。
「あなたロージアン家の人間ね!」
「そうです、あなた方は水の精霊ですか?」
「そうかもしれないわね」
「言っちゃダメよ! 叱られちゃうわよ。しーらない」
「これくらいなら平気よ」
「あたしたち水の精霊を探していたんです」パイも気を取り直し水の精霊に向かって丁寧にお辞儀した。
「力を貸してほしくて?」
「だめよ! 貸せないわ」
頑なな精霊達の態度に困ったパイはダンを手招きしてコソコソと耳打ちした。
「水の精霊は物知りだと聞きました。知らない事は無いと」ダンはさも感心したように話し出した。
「「そうよ! なんでも知ってるわ」」
「ロアに掛けられた呪いを解く方法も知っているんですってね!?」
「もちろんよ! でも教えてあげないわ~」否定的な方の精霊がプイっと横を向いた。
「教えてくれないってさ、パイ」
「そうかぁじゃあ仕方ないね」
「でもさ、もしかして知らないからあんな事言ってるのかもね」
「なあんだ、水の精霊でも知らない事があったんだね」
「知ってるわよ!」
「そうよ、何でも知ってるんだから!」二人ともむきになって身を乗り出してきた。
「でもねぇ沢山の事が頭に詰まってたら、ひとつ位度忘れしちゃうかもね?」
「あ、パイ。僕分かったかも。一人は知ってて、もう一人は知らないんだよ」
「「私は知ってるわ!!」」
二人の精霊が同時に声を荒げると川面がプルプルと震えた。
「泉の精霊よ!」
「あっ、また言っちゃった!」
「あっ」
「あーあ女王様に叱られる」
「あーん、どうしよう~」
小さな水の精霊達は「どうしよう、どうしよう」と言いながら川の水に溶けるようにいなくなってしまった。
ダンとパイは顔を見合わせた。
「泉の・・」
「精霊・・」
大急ぎで城に帰った二人は夕食に来ることになっているバイオレットをまだかまだかと待ちわびた。




