季節の風という精霊
本来の自分の姿はやっぱりいいものだ・・。その姿のままで実体化してお母さんといられるなんて最高!
ウキウキしながらパイは帰路についていた。ルカの事が心配だけど、もうどこをどう探したらいいか分からない。馬車の中でも両方の気持ちが複雑に入り混じり落ち着かないパイだった。
アルバの街に入ってアカデミーが見えてくると丁度15時の鐘が鳴った。
(あんな所に時計塔があるんだ・・)
アカデミーの中央には高い時計塔があった。興味が湧いたパイは馬車を止めてもらいアカデミーに入って行った。
まだ学生で賑わう構内にはパイが入って行っても不振に思う人はいなかった。中央の建物に入り螺旋階段をグルグルと登っていくと天辺に大きな鐘が見えてきた。
最上階は外に出られるようになっていた。そこからの眺めは最高だった。
(うわぁ~良く見える。湖があっちの方だから城は・・あれかなぁ)
パイが目を凝らしているとふいに暖かい風が塔を吹き抜けた。
「お前、その姿。その首輪」
その声に振り向くと空色の短い髪、切れ長の目、薄いシルクで出来たような衣をまとった男が塔の窓枠に座っていた。
「だ・・誰・・?」
怯えた様子のパイにがっかりした顔でその男は答えた。
「誰とは・・父親に向かって誰・・と」
「えええっ! じゃあ風の精霊なの?」
「いかにも。私は季節の風と呼ばれている風の精霊だ。春一番、夏のつむじ風、冬の木枯らし・・あちこちで感じるだろう」
「んんん探すのに苦労したんだけど。全然見かけなかったわ」
「だがお前のその姿を見てすぐ駆けつけたぞ」季節の風は得意そうな顔をした。
「高い所にいたから目立ったんでしょう?」パイはちょっといたずらっぽい目つきで父親を見返した。
「・・で、私を探していたのか?」
パイはトッドの話からルカの症状まで、長い話を季節の風に話した。
「そうか・・あの子は母の傍で幸せにしていると思っていたんだがな」
「あたしがこの国に来なければずっと幸せだったかもしれないわね・・」
「ロアになってしまうような性質に生まれたのがトッドの不幸だろう。お前のせいではない」
(もしかしてあたしを慰めてくれてるのかな・・)
「それで、ルカの病気を治す方法が知りたいの」
季節の風は少しだけこのまま待っていろ、とパイに告げると一陣の風と共に去って行った。
そして3分も経たないうちにまた姿を現した。
「本当に少しだけね、さすが風・・」
「ルカの様子を見てきたぞ。あれはトッドの呪いだな。ルカに呪いを掛けようとしたのではなく、トッドの怨念がたまたまルカに付いたという感じだな」
「それはどうやったら解けるの?」
「トッドが消滅したのなら・・難しいな。ルカの命はもうひと月かふた月だろう」
「えええっ、そんな・・そんな・・。ルカはあたしの恩人なの。何か方法は無いの?」
「癒すのは水の精霊が得意だ。水の精霊に頼ってみろ。私はお前を覚えた。またすぐ会えるだろう」
「お母さんも元気だよ、あたしみんなで一緒に居たい」
「私は風だからね、ひと所には留まれない。だがいつもお前を大切に思っているよ」
季節の風はパイの額に優しくキスすると、また暖かい風を後に残して去って行った。
(ウイシュケの精霊があたしに精霊石をくれたのは、お父さんと会わせる為だったのね。ありがとう・・ウイシュケの精霊)
季節の風が去った後をぼんやり眺めていたパイはウイシュケの精霊の優しさに胸が暖かくなるのを感じていた。
「よし、次は水の精霊ね・・水がいっぱいある所に行けばいいのかな? 川、海?」
パイは元気よく螺旋階段を下って行った。