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再びリンゴの精霊と


 ルカは翌日、以前少ししか話が出来なかったリンゴの精霊に会いに行った。


 りんご林を吹き抜ける風はまだ冷たかったが、枝々には小さな新芽が芽吹いて春の訪れを告げていた。

 リンゴ林の奥にある古木。古木の周りを見渡したがあの緑の長い髪は見当たらない。


「いませんかー?」

「い・る・わ・よ」


 ルカのすぐ後ろで声がした。


「うわあっ・・心臓に悪いなぁもう」

「ふふふっ、・・あら調子が悪そうね?」


 振り返ったルカを見てリンゴの精霊はすぐ気づいたようだった。


「まぁ、ちょっと疲れてはいるかな」

「そう・・この間のロージアン家の話を聞きに来たのね」

「そうです。この家に掛けられた呪いについて何か教えていただける事はないかと」


 長い緑色の髪を風に揺らしながら、ダンに連れられて行った事のある崖前のベンチに精霊はルカを連れて行った。


 ベンチに腰かけると精霊は手のひらを上に向けふっ~とその上に息を吹いた。

 すると手のひらの上に小ぶりで艶の良い真っ赤なリンゴが現れた。


「これを食べて。少し気分が良くなるはずよ」


 言われるままにリンゴをかじるとたっぷりの果汁が口一杯に広がり甘酸っぱい香りが疲れを癒してくれた。体のだるさが抜け、頭もすっきりしてきた。


「これは・・すごいな・・」


 ダンがリンゴに感心していると精霊は話をはじめた。


「ロージアン家の呪いだけれど、私達精霊はよほどの事がない限り他の精霊の行動に口を出せないの」


(それは・・つまりロージアン家の呪いは精霊がかけたという事か! だからウイシュケの精霊も何も教えてくれたなかったのか。教えてくれなかったというより、教えられなかったという方が正しいか)


「そういう事だったんですね」

「だから私達から情報を得るのは無理かもしれないわ。でも・・ただの他愛ない会話をするなら問題ないでしょうね」そういって精霊は赤い目でウインクした。


「でもその前に、あなたは自身の問題を先に解決しなければいけないわね」

「俺の問題?」


 ルカは頭を巡らせた。特に思い当たるふしはない・・。両親の行方か? それはたまに考える事もあるが今の自分にはロッシが居る、それだけで十分だ。


 ま、まさか、まさか女関係じゃないだろうな・・。


 あれこれと悩むルカを見て精霊は笑った。


「そのリンゴは気休めに過ぎないわ。だから急がないと。風の精霊は気まぐれでいつどこに現れるか予想がつかないから」


 そう言い残すと前回と同じようにまた霞のように精霊は消え、少し斜めに傾いた木製のテーブルに赤い精霊石がコロコロと転がった。





 いつもより遅めに蒸留所から帰宅したレナードとダンは元気そうなルカの姿を見て安心したようだった。だが反対にレナードの気落ちした様子にルカは気づいた。レナードが二人を置いて自室に戻って行くとルカは不思議そうに尋ねた。


「お前の兄さん、どうかしたか?」

「うーん、彼女とうまく行ってないのかな。正確には彼女の家と・・」

「レナードの彼女って俺の知ってる人か?」


 ここでダンは少し言いよどんだ。ルカから視線を外し、ぼそっと呟いた。


「・・フランシス・デブロ。マリーナの姉さんだよ」

「おお! パイが言ってたあの超絶美人の!」

「なんでルカが嬉しそうなんだよ!」

「なんでお前はむくれてるんだ?」

「むくれてない。誰かさんみたいに鼻の下も伸ばしてないしねっ」


 ダンはわざとルカの肩にぶつかって横をすり抜けようとした。


 イライラしていた。ルカはただの友達だと割り切るつもりでいたはずだった。自分の想いは報われないのだから。

 なのにうまく行かない。ルカの笑顔が、ルカの関心が自分以外に向けられるのが気に入らなかった。


 少しだけイライラをぶつけたかった。自分の胸の痛みをルカにも思い知らせたかった。


 だがルカの反応はダンが想像していた物とは大幅に違っていた。

 ほんの少し肩がぶつかっただけなのに「うっ」と呻いたルカは肩を抑え、よろよろと壁に倒れ掛かったのだ。


「ル、ルカ?!」驚いて引き返したダンは肩を抑えるルカの手をそっとよけた。「見せて!」


 シャツのボタンを外して胸をはだけさせると肩のあたりから青黒いシミが浮き出ていた。シミは血管にそって広がっており心臓の鼓動と同期して脈打っていた。


「これは・・?!」


 その時パイが階上から降りてきた。


「あ、ダンお帰り~」

「パイ! 来て、これ見て!」


 ダンのただならぬ様子にパイは階段を駆け下りてきた。


「ルカ! あんたいつからこんなに悪化してたのよ!」ルカの肩を見たパイはルカを咎めた。


 ルカは自分の肩を見下ろした。


「ああ・・これはひどいな。でも昨日はほくろ位の傷だったんだ」


 痛みに顔をしかめながらルカは立ち上がった。

 


_____




 すぐ医者が呼ばれた。トッドに噛みつかれた傷自体は大したことがなかった。それがこんな風に悪化した原因も治療法も医者には見当がつかなかった。


 痛み止めと塗り薬、そして念のためにと解毒剤を置いて医者は帰った。


「トッドの毒ってこと?」

「毒なら解毒剤が効くだろうけど・・ロアに噛まれたケースなんてみんな初めてで何も分からないみたいだ」


 パイたちは途方に暮れ。案の定、塗り薬も解毒剤も全く効果が無かった。









 




 


 


 


 

 



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