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真犯人


 シーラン子爵家は喪中で屋敷は静まり返っていた。


 ヘイズが子爵夫妻にに面会を求めると執事が二人を客間に通した。まもなく子爵と夫人が現れたが夫人は明らかにこの面会を快く思っていない様子だった。


「ヘイズさん、今度は一体何の御用でしょうか?」


「ご子息をお守りできずこんな事になってしまったお詫びに参りました」


 見るからにやつれた顔の子爵が首を振った。


「あなたのせいではありませんよ。聞くところによると犯人は捕まったんだとか?」

「ええ、恐ろしいロアが犯人でした」


「ではもういいですわね? 私はサムの支度を手伝わないと・・」


 マーガレット夫人が立ち上がりかけたがヘイズが夫人に待ったをかけた。


「ところで夫人、お聞きしたいことがあるのですが。サイモン様が襲われた夜、彼の部屋にミルクを届けたそうですね?」


「えっ? ええ、それが何か?」イライラしながら夫人は無意識に右腕をさすっていたが、その袖の下からチラッと包帯が覗いていた。


「失礼ですが夫人、その右腕の包帯はどうされました?」


「これは・・軽い火傷ですわ。キッチンで粗相しましたの。それにしても何ですか? 私のケガが何の関係があるっていうんですか?!」マーガレット夫人は語気を荒げた。


「火傷ですか・・申し訳ありませんがその火傷の跡を見せていただきます」


 バイオレットが立ち上がった。「私が別室で拝見いたします。夫人さぁ参りましょう」


 横に立ったバイオレットが促すとマーガレット夫人は顔色を変えて抵抗した。


「どうしてケガを見せなくてはいけないんです?! 一体何の理由があって私の傷を見せなければいけませんの? あなた、貴族にこんな無礼を働くことを許すのですか!」


 マーガレット夫人の過剰な反応に困惑する子爵はヘイズに説明を求めた。


「ご子息の手の爪には抵抗した跡がありました。屋敷中の関係者を全て確認しています。後は夫人と子爵だけなのです。捜査に例外はありません」


 子爵は目を見開いた。そして厳しい顔でバイオレットに視線を移した。


「分かりました。お願いします。マーガレット、この人に傷を見せて差し上げなさい。やましい事がなければ問題ないはずだ」




_______




 マーガレット夫人の傷は火傷ではなかった。

 右腕にくっきりと残っていたのは長い引っかき傷だった。

 

 傷についての嘘がバレた夫人はあっさり犯行を白状した。

 

 夫人はシーラン子爵の後妻で、サイモンは先妻の子供だった。マーガレット夫人は自分と子爵との間に生まれたサムを子爵家の跡取りにしようと、トッドが起こした事件を模倣してサイモンを亡きものにしようと企んだのだった。



「最初に持って行ったミルクに睡眠薬を入れたそうよ。その後食器を片付ける振りをして戻り、眠っているサイモンに枕を押し付けて窒息させたらしいわ。ただサイモンの眠りがまだ浅くて途中で目を覚まして腕を引っかいたみたいね」マーガレット夫人を聴取したヴァイオレットが説明した。


「恐ろしい女だな。眠らせておけば女の力でも抵抗出来ないと計算済みって訳か」

「トッドの犯行を真似るなんて計画もよく思いついたもんだ」


 ルカとヘイズ、二人は不快感を露わにしていた。


「でもトッドの被害者が生気を吸われていた事は知らなかった・・」

「悪事は露見するんだよ、ルカ」


 夫人の身柄を拘束し警備隊に戻ってきた3人はやっと事件が解決したことに安堵していた。


「それじゃ私は帰るわ。ルカ、この後食事でもどう?」

「俺はまだヘイズ隊長と話しがあるから、また今度な」


 バイオレットは残念そうな視線をルカに残して帰って行った。


「後はロージアン家の依頼だな。何か聞きたい事があるのか?」ルカの意図を汲んで、先にヘイズが問いかけた。


「ええ。ロージアン家は男系が濃い血筋のようだけど、男子をもうけるのは貴族では最重要事項ですよね?」


「そうだな、跡継ぎの問題は貴族には切実な事だからな。だが最近は直系に強くこだわる風潮は薄れてきているようだけどな。親類から養子を取って後継者に育て上げる貴族も最近は多いな」


 ヘイズはデスクから立ち上がりルカと自分にお茶を注ぎながら話を続けた。


「ロージアン家は確かに子女が少ないと聞くな。うちのばあさんがまだ少女だった頃に奉公に上がったことがあるそうなんだが、跡継ぎの結婚相手には徹底して男系の家だけを選んでいたらしいな。もうそれは異常なほどこだわっていたらしい」


「そのヘイズ隊長のおばあ様はまだご存命で?」


「ああ、ぴんぴんしてるよ。話が聞きたければ紹介する」


「いつかお願いするかもしれません。それと、この後何か仕事はありますか?」


「いや、今はないな。春になると豊穣祈願の祭りがあるから交代で警備を頼むと思う」


 仕事がないのはありがたかった。どうも調子が良くないルカは今は休みたかったのだ。









 


 




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