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黄金の瞳のルカと精霊の呪い  作者: 山口三


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トッドの最後


 ルカのすぐ後ろに立っていた隊員は小声で何か指示をされると走って階下へ戻って行った。


 指示を出したルカはバイオレットとトッドの間に立ちふさがった。目はトッドであろう煙から離さず、後にいるバイオレットに(合図を待ってくれ)と囁いた。


「女のを庇うのか、無駄な事を。お前を殺して(やって)から女を殺すまでだ」


 トッドは煙から実体化して襲い掛かってきた。ルカ目掛けてトッドの爪がヒュッっと鋭い音を立てたが左側に体をよじらせすれすれの所でルカは爪をかわした。


 すぐにもう片方の爪がルカの頬をかすめた。つうっと真っ赤な血がルカの頬を伝った。


 屈んだ低い体勢のままルカは肩からトッドに突っ込んでいった。が、またトッドは煙になって散りルカは勢い余ってベッドの柱に肩をぶつけた。


 トッドの勝ち誇った様な笑い声が響いた。


 霧散した煙は再度ひと塊になると中から鋭い爪の両手が伸びた。ベッドの柱を背にルカはその両手首をがっちり掴んだ。


 今度は煙の中からトッドの頭部が現れた。ルカとトッドの力が均衡する中、トッドは大きな口を開け異様に伸びた犬歯でルカの肩にかぶりと噛みついた。


「うわっっ」


 その時、後ろからパイが大きなバケツに入った水をトッドにぶちまけた。


 トッドの口がルカの肩から離れるとルカはトッドの手首を離し背後にジャンプしてベッドに飛び移った。ルカの瞳が黄金に輝き、勢いよく飛び出した黄金色のチェーンがトッドの両手と首に巻き付きトッドを拘束した。


「今だ!」


 ルカの合図でバイオレットはチェーンめがけて電撃を放った。


 トッドに巻き付いたチェーンに電撃が走った。水に濡れたトッドは煙になる前に感電してブルブルと体を震わせた。体は実体化して床にくずおれ手や顔が焼け焦げて、目からは黒い液体がどろっと流れ出てきた。


 部屋は静まり返り、焼け焦げた匂いがツンと鼻を突いた。ベッドの上のルカの荒い息遣いだけがやけに大きく聞こえていた。


 バケツを両手で抱えたままパイが恐る恐るトッドに近づいて行った。


 そうっとパイが覗き込むといきなりトッドの手がパイの手首を掴んだ。バケツが大きな音を立てて床を転がった。


「パイ!」


 バイオレットとルカが駆け寄ろうとしたがトッドの手はすぐポロポロと崩れて床に落ちた。トッドの頭がゆっくり動きベッドの方を見て唸った。


「おのれぇ」


「トッド!」


 パイの声に反応したその目は上を向きパイを見上げた。


「かあ・・さ・・ん・・」


 そう僅かに聞き取れたかと思うとトッドの体は見る間に崩れ、ひと山の土の塊になっていった。


 呆然と土の山を見下ろすパイの肩をバイオレットが抱き寄せた。


「トッドは残念だったわねパイ。でもあなた、よくやったわ」


 はっと顔を上げたパイは「腕は? 腕は大丈夫?」と、バイオレットの腕に目をやった。


「まぁ大丈夫よ。そんなに深い傷じゃないわ。それよりルカを見てあげて」


 バイオレットは傷の手当てを促され、隊員と一緒に部屋から出て行った。


 パイはベッドの上に腰かけた。


「ルカ・・傷だらけだね。動ける?」


「むぅぅぅ、まさか噛みつかれるとは思ってなかったよ」


 ゆっくりと体を動かしながらルカは苦笑した。自分でも気づかないうちにあちこち切られて服もボロボロだった。柱に打ち付けた肩もズキズキと痛む。


「肩を貸すわ」


 片側をパイに支えられてドアまで行くとバイオレットがもう片方の肩を支えた。


「俺、重病人みたいだな」


「お疲れ様って事よ」そう言ってバイオレットはルカの頬にキスをした。


「またか」横で見ていたパイの表情はそう言っていた。




_____




「や、久しぶり」


 城に帰ってくると執事のジョージが目を丸くして驚いた。


「ルカ様・・これは随分と、その・・」

「ボロ雑巾みたいだろ。あ、それからこっちはパイな。囮になるために変化したんだ」



 階段を駆け下りてくる音がすると踊り場から息を切らせたダンが現れた。


「ルカ、パイ!」


 そしてルカの惨状を見て息を吞んだ。


「そんな顔するな、俺は生きてるよ」

「あ・・部屋に薬を持っていくよ。包帯も」青い顔をしてダンは駆けて行った。


「あいつの方がけが人みたいだな」



______



「応急処置はしてもらったからもう大丈夫だって」


 痛み止めの薬だ、やれ包帯を取り変えた方がいい、とダンはルカに世話を焼きまくった。


「じゃあ枕を変えよう、柔らかいのにしないと顔の傷が痛むだろ?」


「ダン、ルカは疲れているだろうからもう寝かせてあげた方がいいわ」


 エマ夫人が新しいタオルを置きながらダンを連れて行こうとした。


「ごめん、そうだね。ゆっくり休んでルカ。おやすみ」



 廊下を歩きながら母は息子に言った。


「あなたの気持ちは分かってるつもりよ。でもあなたが傷付くのをただ見てるなんてやり切れないの」

「母さん、大丈夫だよ。僕は自分の気持ちを整理してる所だから。ちょっと時間がかかってるだけ・・僕とルカは友達なんだ。友達を心配するのは当たり前だろう?」


「辛い時は言うのよ。吐き出してしまえば少しは気が楽になるわ。お願いだから一人で抱え込まないで」

「うん、心配してくれてありがとう。おやすみ、母さん」




 階段の踊り場の窓から月明かりが差し込んでいた。

 ダンは窓を開け、青白く輝く月とその姿を映す湖に目をやった。


「湖に映った月なら手に取れるのかな・・」


 





 



 






 


 

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