2度目の変化(へんげ)と串焼き
アンカテル隊長もやはり最初は反対した。もしトッドが犯人なら彼を煽る行為になりかねない。だが最終的にはパイの勇気を褒め、囮作戦の許可を出した。
ミッチェル家までの道中、バイオレットはパイに感心していた。「私、ますますあなたが好きになったわ、パイ!」
ミッチェル家ではフローラがルカを待ち構えていた。
「フローラ、君はこの後ローレルと一緒に治安警備隊が指定する隠れ場所へ行ってくれ」
「ローレルは私とパイと一緒に来てくれるかしら」
バイオレットとパイと共に自分の部屋に連れてこられたローレルは不安そうに尋ねた。
「私の部屋で・・何を?」
「まずはあなたの服を貸してもらえるかしら?」
クローゼットから自分の服を取り出したローレルは一旦部屋を出されてしまった。そして物の2分も経たないうちにまた部屋に呼ばれたローレルは困惑していた。だが部屋に入るともっと驚いて目を瞬いた。
「姉さん、いつの間に私の部屋に入ったの?」ローレルは自分と同じ顔の人物を見て当たり前の反応を示した。
「はずれです。あたしはパイよ」
相手がさっき渡した自分の服を着ている事に気づいたローレルははっと息を飲んだ。「まあ! 妖精ってほんとに変身できるのね!」
「うん、純度の高い精霊石があれば自分の思った通りに変身できるの」
「うふふ、姉さんもきっとびっくりするわ! 早く下に降りましょうよ」
バイオレットを先頭に3人は階下に降りて行った。
「やだ、どういう事!?」
双子らしくローレルと同じ表情でフローラも驚いた。事情を聞いたフローラは穴のあくほどパイをじろじろと見て感心していた。
「まるで3つ子になった気分だわ。妖精ってこんな事もできるのね」
「ま、そういう事だからフローラは安心してローレルを連れて避難してくれ」
「ええ、だけど・・パイが危ないんじゃ?」
「大丈夫、ルカとバイオレットがあたしの傍にいるんだから」ルカとバイオレットの間に立ったパイは、二人の肩をポンポンと叩いてウインクした。
警護するには大きな貴族の屋敷より平民の家の方がやりやすかった。
外には3人が見回り、2階のローレルの部屋の両隣にルカとバイオレット。1階には警備隊員が2人配置についた。
2日間は何事も無く過ぎた。
「ああー退屈だ~~~トッドが来る前に退屈で死ぬぅ」ローレルのベッドの上でゴロゴロしながらパイが言った。
「パイ・・」
「ね、ルカ、チキン買ってきて。もう食べる事しか楽しみがない!」
バイオレットは複雑な顔をしてパイを見ていたが同情するように言った。
「仕方ないわよね、缶詰め状態なんだもの。でもあんまり食べ過ぎたらスタイルに影響するわよ」
「ちょっとくらい平気! 昼間は襲ってこないと思うから二人で行ってきてよ」
反論することなくルカとバイオレットは買い物に出掛けた。
商店街はすぐ近くだった。夕飯の買い物に賑わう中をルカ達は縫って歩いた。
「すごい人出だと思ったら今日は市が立ってる日なのね」
生産者がテントを張って直接野菜や果物、陶器などを販売する市が月1回開かれる。それがどうやら今日だったようだ。
「迷子になりそうだわ」そう言ってバイオレットはルカの腕に自分の腕を絡ませた。
市のテントにはチキンを扱っている店もあった。揚げたものや串焼きにしたものなど色んな種類がいい匂いを漂わせていた。
警備している隊員達の分も買ってからルカは最後に串焼きを2本追加した。
「ちょっと小腹が空いたよな」
そう言ってバイオレットに1本渡し、食べながら歩いていると向こうから見慣れた二人がいるのに気付いた。相手もルカ達を認めているようだった。
「あら、ルカ様。こんな所でお会いするとは思いませんでした」
エレンとダンだった。エレンのお使いにダンが付き合っているのだろう。沢山の食材をダンが抱えていた。
「お仕事ですか?・・じゃないですね」腕を組んで串焼きを食べ歩きしている二人を見てエレンは訂正した。
「いや、仕事だ」
口の中がいっぱいでそれしか言えないルカを見てエレンはクスッと笑った。
「お邪魔しちゃ悪いですから、行きましょうかダニエル様、ダニエル様?」
棒立ちで二人を見ていたダンにエレンが首を傾げた。
「あっごめん、行こうか・・じゃあまた・・」ルカとは目を合わせないようにしながらダンは人混みに紛れて行った。
(僕の顔、引きつってるだろうな。友達になるって決めたのに僕は・・情けない。それにしてももうあんなに仲良くなったのか。ニッパー同士だと話も合うんだろうな)
ただの友達になろうと決めた頭とは裏腹にダンの心はチクチクと痛んだ。
「美人さんでしたねぇ~ルカ様とお似合いでしたわ。それにしてもどこの国の方でしょうかしら」
「うん?」
「ダニエル様、どうかされました? 先ほどから上の空で・・お加減でも悪いのですか?」
「ごめん、大丈夫だよ。あと買うものは何だっけ?」
「あとはハチミツです。この先に品質のいいものを置いてるテントがあるんです」
ダンの辛い心境など露知らず、エレンはずんずんと進んで行った。