再会
「そういう訳でして、トッドはもう以前のトッドではありません。伯爵夫人の意思は尊重したいのですが、なんとか一度パイに会っていただけないでしょうか?」
パイの母親のコーンウォール伯爵夫人の居間でルカは伯爵夫人を説得していた。
パイが囮になる前に会ってくれとは言えなかったが、ロアになってしまったトッドが危険な事は知らせておいた。トッドの歪んだ殺意がいつ母親に向かうか分からない。
「わたしがトッドを思う気持ちはもう伝わらないだろうという事ですね。・・分かりました、私としても本当はとても彼女に会いたかったのですから異存はありません」
トッドがもう自分の知る可愛い息子ではなくなってしまった事にショックを受けてはいたが、コーンウォール伯爵夫人はにっこり笑って同意した。
ルカに連れられて夫人の部屋の前まで来たパイは今更ながら怖気づいていた。
「や、やっぱりやめようかな・・ルカ、帰ろうよ」
「お前ここまで来て何言ってんだよ」
「だって・・想像していたのと違うって言われたら? トッドのほうがずっといい子だって思われたら?」
「夫人はそんな人じゃないぞ。ほら、行ってこい」
ルカはドアをノックして開けパイを中に押し込んだ。自分は外で待ってるからゆっくりして来いと言ってそのまま行ってしまった。
「どうぞこちらへ来て頂戴。私は足が悪くてあまり動けないのよ。ごめんなさいね」
春の暖かい日差しの様な優しい声だった。パイが想像していたよりずっと優しくその声はパイに語りかけた。
パイはおずおずと夫人が座っているソファに近づいた。
「パイね、よく来てくれたわ。もっと近くで顔を見せてちょうだい」
パイは夫人の横に膝まづいて夫人を見上げた。
「こ、こんにちは。パイです・・」
「よく、よく来てくれたわ」
「あの、あたしに会ってくれてありがとう。これプレゼントです。あたしが選んだの」
パイはリボンで装飾された小さな包みを手渡した。中には花柄のスカーフが入っていた。
そして手渡された時に夫人はパイの手首に付けた猫の首輪を見て言った。
「まぁ綺麗な柄のスカーフね。ありがとう、とても嬉しいわ。・・これは私があなたに付けてあげた首輪ね。ああ、また会えるなんて本当に夢みたいだわ」
夫人はパイの顔を胸に抱きしめた。パイの顔にぽたぽたと夫人の涙が落ちてきた。顔を上げたパイの目にも涙が溢れていた。
「お、かあ・さん・・」
しばらくの間二人はしっかりと抱き合っていた。
「聞きたい事が沢山あるわ。でも時間がないんでしょう?」
「うん、トッドを止めないと」
「そうね、トッドを止めてちょうだい。でもあなたも命を大切にするのよ。またここに帰ってくるって約束して」
「約束するわ、あたしお母さんの所に帰ってくる」
母の頬にキスしてパイはルカの元へ戻って行った。
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ルカは屋敷から出て正門の所でパイを待っていた。
目をゴシゴシこすって顎をツンと突き出しパイは言った。
「ルカ! さあ行くわよ!」