パイの覚悟
ルカが城に着いたのはちょうど夕食時だった。
ジョージが皆食堂にいるからそちらへどうぞ、と案内した。
(そういえば今日は昼抜きだった)
食堂に入ると言い匂いがしてきて空腹だった事を思い出させた。
「ルカ、帰って来たんだね。4件目は?」ルカが入って行くとすぐパイが尋ねた。
「後でパイに話があるんだ。4件目の事はその時に話すよ」
食事中はこの事件の話で持ち切りだった。子爵家の長男サイモンが亡くなった話はもう巷に伝わっていた。
「やっぱり悪い妖精の仕業なのか?」珍しく随分と酒が入っている様子のレナードが聞いた。
「まだ何も証拠はないので確実ではないけど、間違いないかな」
「うちは大丈夫かしら? 動機が不明って新聞に書いてあったわ」
「夫人、ロージアン家は大丈夫ですよ」
治安警備隊でニッパーのルカの言うことなら安心できる、と場は少し和んだ。
だがダンは自分のグラスに視線を落とすルカには何か気がかりな事があるように思えてならなかった。
ルカとパイが部屋に戻ろうとするとダンが声を掛けた。
「僕も4件目の話を聞いていい?」
(ダンは部外者だが、これから話す事はパイにはきつい話だろう。ダンが傍にいて慰めてくれたら俺も助かる・・)
「ああ、俺の部屋で話そう」
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「じゃあ・・トッドは私を殺す代わりに罪もない人を無差別に殺してるって事なの?」パイは冷静にルカの話を受け止めたが、その声にはショックの音色がはっきりと聞き取れた。
「そんな・・証拠はないんだろ? さっき言ってたじゃないか!」
「いいの、ダン。ロアの仕業だということは間違いないし、ロアなんてどこにでもいる存在じゃないわ」
トッドの仕業と予想していたのか、パイは決心したように言った。
「フローラの家を警護してるんでしょ? あたしそこへ行って囮になるわ」
「えっ?」
驚くダンをよそに、無言でルカは鋭くパイを見た。
「トッドがお前に気づいたら今度は本当にお前を殺そうとするかもしれないぞ。トッドは正気を失っている。ロアになると精神を蝕まれていくんだ」
「パイ、ダメだよ囮になるなんて! 危険じゃないか。ルカも反対してよ」
「ダン、あたしのせいで人が死ぬなんて耐えられない。トッドがあたしを殺そうとするなら迎え撃ってやるわ!」
「パイ・・君って凄いね」
「ふふふ、ルカからあたしに乗り換える?」
「なっ!」
真っ赤になっているダンをパイはからかい続けていた。
「明日朝すぐ出かけるぞ。今日は早めに休んでおけ」二人を微笑ましく見ていたルカが立ち上がった。
「僕にも何か手伝える事はない?」
「気持ちは嬉しいが前回よりトッドは強くなっているはずだ。お前を危険に晒す訳にはいかない」
「そう、だね」
(前回も僕はただの足手まといだった。ルカの盾がなかったら僕はやられていたかもしれないんだ)
ダンが出て行くとパイがまた部屋に戻ってきた。
「お願いがあるんだけど。フローラの家に行く前に・・その・・お母さんに会いに行きたいの」
ルカは目を見開いた。
(パイはそこまで覚悟しているということか・・)
「分かった。伯爵夫人を説得してみるよ」
翌朝、城を出た二人はまずコーンウォール伯爵夫人の屋敷に向かった。
まずはルカが夫人に面会を求め一人で屋敷に入って行った。




