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黄金の瞳のルカと精霊の呪い  作者: 山口三


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サイモンの死


 初冬のこの時期の夜明けは遅い。使用人たちはまだ暗いうちから起きだして朝の支度に取り掛かっていた。ルカ達もそろそろ交代の時間が迫っていた時だった。


 屋敷から隊員の一人が血相を変えて出てきた。


「た、大変です。サイモン様が・・」


 念のためその隊員を裏口に残してパイとルカはサイモンの部屋に急いだ。

 部屋にはシーラン子爵が既に到着していた。ガウン姿でブルブルと震えながらベッドで冷たくなった息子の手を握りしめていた。


「息子を守ってくれるのではなかったのですか!? サイモンはこの子爵家を継ぐ大事なわたしの息子だというのに。サイモン・・おおおお」


「申し訳ありません、シーラン子爵。我々が警備していながらこんな事になってしまって・・」


 ルカはそっと子爵の肩に手を置いた。


「大切な子息を奪った犯人を一刻も早く見つけなければなりません。捜査の為に、どうかしばらく隊員だけにしていただけないでしょうか?」


 シーラン子爵は頷いてふらふらと部屋を出て行った。戸口にはマーガレット夫人の姿もあったが部屋の中には入ってこなかった。


 子爵が部屋を出るとルカ達はすぐさま部屋を調べ始めた。サイモンが就寝するときには隊員がドアのすぐ外で警備していたが誰も中には入らなかったそうだ。戸締りも抜かりはない。


 そしてサイモンの遺体を見たルカはパイを呼んだ。


「あれ・・この遺体は」


 ベッドに横たわったサイモンは昨日会った時と変わらない若々しい18歳の姿のままで亡くなっていた。髪も綺麗な栗色のままで肌も干からびていなかった。


「前の2件と明らかに違うな」


隊員が町医者を連れて入って来た。医者は遺体を詳しく調べて外傷は見当たらないとルカに告げた。


「吐血をした様子がないので毒でもないと思われます」


(そこは前の2件と同じか)


 医者が見分を終え、遺体の衣類を整えてから手を胸の上で組ませようとしたとき、ルカが医者の手を止めた。


「この爪の間に何か入ってますね?」


 医者は手を持ち上げ爪の間からピンセットで何かをつまみ出した。


「これは・・人の皮膚の様ですね。血も少し滲んでいます」

「襲われた時に抵抗して相手を引っかいたのか・・」


「恐らくそうでしょう‥可愛そうに。弟思いの出来た子だったのに」


 医者は残念そうに首を振ると帰って行った。



「パイ、妖精が居たような痕跡は残ってないか?」

「ないわね。これっぽっちも」親指と人差し指で小さな隙間を作って見せたパイは窓を開けて外を見た。


「窓の下は裏門ね、あたしたちに見られないでこの窓から侵入するのもほぼ不可能よね」

「ああ、相手が妖精だとしても俺たちには見えるからな」


 その後、屋敷の人間の行動の聴取は他の隊員に任せてルカとパイは警備隊本部へ戻った。


 本部ではバイオレットが待っていた。


「サイモンが亡くなったんですって?」

「ああ、誰も犯人を見ていない。妖精の痕跡が無いのは前回と同じ。だが今回は被害者の老化が見られない」


「今回は老化が見られないとしても、ああいう現象を引き起こせるのはロアって事よね?」

「それしか考えられないな・・」


「私もロア絡みの事件は初めてだけど・・パイのお兄さんがロアになったのよね?」


(パイの手前、トッドと結び付けて考えたくはなかったが一時に(いちどき)別のロアが現れるとは考えにくい。やはりトッドなのか・・)


「この短期間に同じ場所でロアが2体も現れるとは考えにくいよな」

「ええ、それだけロアは稀有な存在よね」



 警備隊もトッドの行方を追うことが最優先ということで合意した。

 パイとルカは夜の警備で寝ていなかった為、今日は帰って休むようにアンカテル隊長が指示を出したがルカは断った。

「パイだけ城に送って、俺は風呂に入ってからすぐ戻ってくるよ。一晩位寝なくても問題ない」

「あたしは限界。ルカには悪いけど今日は休みたい」

「あら、アルバまで帰ってまた戻って来るなんて面倒じゃない。あたしの部屋のシャワーを貸すわ」


 バイオレットの提案にルカは少し迷ったが、時間を無駄にしたくなかった。


「悪いな。そうさせてもらうよ」


 眠そうにしていたパイが素早く顔を上げてルカを見た。そして小声で「あんたまたそうやって軽々しく女の家に上がり込もうとして」とルカを睨み付けた。


「誤解だ! 俺は本当に時間を無駄にしたくないだけだよ」


 パイは無言でルカの顔をじーっと見ていた。(信用できない)パイの顔にはそう書いてあった。






                 



 

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