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黄金の瞳のルカと精霊の呪い  作者: 山口三


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事件の報道とバイオレット


 何の成果も得られないまま3日が経った。そして4日目の朝にまた悲報がもたらされた。


 アカデミーの近くにある家で、前回と同じ様に娘の変わり果てた姿が部屋で発見されたのだった。

 昼夜を問わず警備していたにもかかわらず、娘は干からびて老婆の様な姿で息絶えていた。


 怒りと悲しみに狂った父親は交際相手を逮捕してくれとヘイズに懇願したが、冷静なヘイズの説明に諭されようやく人間の仕業ではないことを受け入れた。


 アルバのような小さな街で2件も不審死が起きて住民の不安は抑えきれない程に膨れ上がった。


 つい最近まで食物の腐敗事件でレントランやカフェが営業停止に追い込まれていたばかりだ。やっとそれが解決して普段通りの生活が戻ってきた矢先に不審死が2件。しかも数週間のうちに。


 警備隊は詳細を公表せざるをおえなくなった。


 新聞には『妖精の呪いか?! 謎の文字と記号が現場に!』などと住民の不安をあおる様な表現で事件が報道されてしまった。




 治安警備隊での会議でも様々な議論が交わされた。


「ヘイズ隊長、あの夜も他の日も異常はありませんでした。2日前に娘の元交際相手が尋ねてきてましたが父親に追い返されていました」


「元交際相手はまだ娘に未練があるようでしたが、事件の夜はアリバイがありましたから犯人ではないようですね。そもそもあんな事が人間に出来るとは思えません」


「妖精相手なら我々がいくら警備しても無駄なのではないでしょうか? ニッパーをもう一人要請してはどうでしょう?」


 警備隊も解決の糸口が掴めない事件に焦燥を隠せなかった。



____




 その数日後に持ち込まれた3件目の依頼は首都の貴族の家からの相談だった。

 首都の警備隊に相談が持ち込まれ、ヘイズの方にも連絡が来たのだった。


「ルカ、首都の警備隊に行ってくれないか? パイも一緒に。どうやら首都にまで事件が拡大しているようなんだ」


  ヘイズに頼まれて向かった首都の警備隊ではアンカテル隊長が待っていた。


「スチュアート君、まずはこちらに来てもらえるかな。パイ君は初めてだね、ようこそ警備隊本部へ。先日の事件では大変だったね」


 アンカテルは切れ者のヘイズ隊長とは違うタイプの男だった。もう60近い温厚そうで落ち着いている丸顔の男は治安警備隊の隊長というよりはアカデミーの校長のような風貌だった。


 アンカテルは小さな会議室へ二人を案内した。事務的で飾り気のない会議室には先客がいた。


「こちらはバイオレット。本部に在籍しているニッパーだ。バイオレット、こちらはニッパーのルキウス・ステュアート君と助手で妖精のパイ君だ」


 振り向いた女性は20代半ばくらいだった。背も高く褐色の肌に服の上からも分かる鍛えられた体をしている。力強い光を放つ瞳からは自信に溢れた性格が読み取れた。


「よろしくね、ルキウス。私の事もバイオレットと呼び捨てて頂戴。それから私の親はずっと南の遠い国出身なの。この肌の色がここでは目立って仕方ないから先に言っておくわね」


 見た目にたがわず、その話し方も堂々としている。それからパイに向かって手を差し出した。


「よろしくね、パイ。妖精が助けてくれるなんて心強いわ。そしてとても珍しい事よね」


(これはマリアとソフィアとはまた違ったタイプね。どちらかというとソフィア寄りかしら…ルカめ鼻の下を伸ばしちゃって・・・)


 パイは内心とは裏腹に満面の笑みでバイオレットと握手した。「よろしくねヴァイオレット」


「どうも、俺の事はルカと呼んでくれ」ルカはよそ行きの笑顔でヴァイオレットと対峙していた。


「では早速だが、今回の件はニッパー二人体制で挑んでもらいたい。アルバではもう二人も亡くなっているからこれ以上被害が拡大しないうちに解決したいと思う」


「まずは問題の子爵家に行ってみますわ、その後ここで作戦会議を開きましょう」

「それがいいな。俺たち3人で行ってみよう」


 


 シーラン子爵家は首都から西に30分ほど馬車を走らせた郊外にあった。


 3人が執事に案内された部屋は長男のサイモンの部屋だった。


 2件目の娘の部屋と同じようにドアの内側や鏡、暖炉の上に掛けてある風景画などに文字と記号が書きなぐられていた。


 部屋を一通り見た後、3人は客間に通された。

 客間にはシーラン子爵と長男のサイモン、子爵夫人のマーガレットが待っていた。真っ蒼な顔をして怯えるサイモンと同じく心労でやつれた顔の子爵がが口を開いた。


「これはアルバの事件と同じ犯人なのでしょうか? わたしの、わたしの息子が狙われているんでしょうか?」

 

「シーラン子爵、文字が描かれたのはサイモンさんの部屋だけでしょうか?」

「そうです、うちにはもう一人息子がおりますが、そのサムの部屋には異常はありません」


 ルカは今までの事件のあらましをざっと説明した。狙われた人物がどのように亡くなるかは省いて。


「ですので警備隊の人間をこちらの邸宅の中にも配置したいと思います」

「そしてなるべくサイモンさんには部屋で一人にならないようにしていただきたいと思いますわ」


 バイオレットの方をチラッと横目で見たマーガレット夫人が夫に向かって感情のない声で言った。


「一人にならないようになんて、大げさじゃございません? よそ者に邸内をうろつかれるのも不快ですわ」


(よそ者、か。確かにそうだが治安警備隊の人間だと身分が保証されているんだし、自分の息子が命の危険に晒されているのに気になるのは邸内の快適さなのか・・・)


「夫人、息子さんの為です。万全を期すに越したことはありません」


 ルカの言葉にシーラン子爵は頷いた。


「ここは専門家にお任せしよう、マーガレット。よろしくお願いしますスチュアートさん」







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