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黄金の瞳のルカと精霊の呪い  作者: 山口三


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画家の死


 2階のアトリエに通されたルカの目に飛び込んできたのはジョン・カテルの変わり果てた姿だった。

 

 30代そこそこに見えた彼は今や100歳の老人と言えるほどしなびてやせ細りベッドに横たわっていた。髪の毛も真っ白で、どれほど凄惨な事があったのかを物語るように、その目は恐怖に見開かれていた。


「ヘイズ隊長・・これは」共に駆けつけたヘイズに説明を求めるようにルカは視線を移したが、ヘイズの表情にも戸惑いだけが浮かんでいた。


「家の者が朝食に来ない彼を呼びに来て発見した。初めはどこかの浮浪者が忍び込んで死んだのかと思ったそうだが、衣服とこの腕にある火傷の跡でジョンだと判明したらしい。ちなみに彼は昨日までは普段と変わりなかったそうだ」


 ヘイズが袖をまくり上げると大きな火傷の跡が現れた。


「外傷は?」

「ざっと見た所はないな。どう思う? いや、どうも何もないな。一晩でこんな事が出来るのは人間業じゃない」

「そうですね。こんな風に人を殺めるのはロアにしか出来ないでしょう。俺もロア絡みの事件は先日が初めてだったので断言は出来ませんが」


「ジョン・カテル。彼は時々妖精が見える体質らしかったから、ロアの姿を見てこんなに恐怖したのかもしれないな・・」


 廊下で女性の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。「兄さん!! ひどい、どうして兄さんが?!」


「嫁ぎ先から帰ってきた妹だそうだ。可愛そうに」

「この姿は見せられませんね・・ロア絡みならパイに現場を見てもらったほうが良さそうですね」

「ああ、頼むよ」


 翌日パイを連れてアトリエに戻ったが妖精の気配はあったものの犯人に繋がるような手がかりは得られなかった。




 警備隊に新たな依頼が持ち込まれたのはジョン・カテルの事件の4日後だった。


「今度はアカデミーの近くにある家からの相談で娘の部屋にまたイタズラ書きがされたそうだ」



 今度もヘイズとパイと共にその家を訪ねたルカはジョン・カテルのキャンバスに描かれた文字と同じ物を見ることになった。

 

 女性らしい柔らかい色合いの壁紙に花模様のカーテン、花が美しく生けられた花瓶が飾ってあり、いかにも女の子の部屋と言った感じのその部屋にはドア、姿見、天井にまで前回と同じ文字と印がペンキの様なもので描かれていたのだ。



「あんな男と付き合うからだ!」


 娘の父親は娘の以前の交際相手が犯人だと決めつけていた。娘は当然違うと反論したが父親は聞く耳を持たなかった。母親はおろおろするばかりで、兄という男が一生懸命妹を慰めていた。


 その場でははっきりと断言しなかったが交際相手が犯人ではないことはヘイズもルカも承知していた。


「とにかく戸締りをしっかりして、お嬢さんは外出はしばらく控えてください」


 そう念を押して家を後にしたヘイズとルカ、パイは警備隊で会議に参加した。

 しばらくこの家を警備すること、文字と印の解明、両家の接点など捜査することになった。


 

 


「それは何の印?」


 ルカが顔を上げるとダンがノートを見下ろしていた。

 居間のテーブルにノートや文字を書き写した紙を広げ、外国語の辞書と照らし合わせているところだった。外国語の辞書は何冊も積まれて、テーブルの上は雑然としていた。


「事件の現場に残されていた物なんだ。どこの国の言葉か分からないし、何の記号か印なのかもさっぱりで参ってる」


 ダンは向かい側のソファに座り、記号や文字が書かれた紙を何枚か手に取って見ていた。


「夕食までまだ時間があるし、手伝うよ」

 

 そう言って分厚い辞書を手に取りダンも調べ物を開始した。



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