兄と弟
「ジュード、ダンがどこにいるか知らないか?」
「レナード様、ダニエル様は湖へ釣りに行くとおっしゃってましたよ」
城正面の東側から後方に沿って緩やかな坂道があり、湖に繋がっていた。
坂道沿いに歩いていくとダンの姿が見えた。天気は良く風はおだやかで釣りには絶好の日よりだった。だが竿を手に持ったままダニエルは釣りをせず、ただぼーっと湖を眺めていた。
「ダン」
声を掛けられて初めてレナードが近くまで来ていた事に気づいたダンは驚いて竿をその場に落としてしまった。
「兄さん、びっくりした。どうしたの?」
「お前こそ・・大丈夫か? 考え事でもしてたのか?」
湖から少し離れて近くの大きな石に腰かけた二人はしばらく黙って湖を眺めていた。
太陽の光が湖面に反射してキラキラと輝いている。遠くの方で魚がライズしてその光の中に波紋を広げて行った。
「辛い事があったら言えよ。俺は聞いてあげる事しかできないかもしれないけど・・お前が心配なんだ」
「兄さん、僕は・・フラれちゃったよ。やっぱりこんなんじゃ難しいよね・・僕は幸せにはなれないかも」
「可哀想に。ダン、お前は何も悪くないのに・・何も!」
兄は弟の震える肩をぐっと抱きしめた。兄の肩を借りて弟は静かに涙を流した。
―――――
湖までダンを探しに行ったレナードだったが、結局ダンに自分の話をすることができなかった。
傷心の弟の前で自分の恋人の事を話すなんて無神経な真似はできない。それにデブロ家はレナードとフランシスの交際に反対している。自分も弟の二の舞になる日が来るかもしれない・・。
しかし、ダンを振った相手は誰なんだ? 一発殴ってやりたいが・・ダンが許さないだろうな。
夜が更けて、その一発殴ってやりたい相手とレナードは仲良く酒を酌み交わしていた。
「いやあ ルカは酒の味が分かるね」
「これはソーダで割ると最高じゃないか。ロッシにも送ってやりたいな!」
「うーわ、二人とも随分酔ってるわね」
二人がいる部屋に顔を出したパイが少しあきれ顔で入って来た。パイの横をすり抜けたピータンがルカの膝に飛び乗った。
「おっ、ピータン! さてはつまみのピーナッツが欲しいんだな」
「ルカだめだよ、そんなものあげちゃ!」
ピータンをルカの膝から取り上げたパイはレナードの隣に腰かけた。
「明日は街の図書館に行くんでしょ? あたしは別行動でいい?」
「いいけど、何するんだ?」
「その・・お母さんにプレゼントを買いたいの」
(ああ、昨日は治安警備隊から働いた分の給金を貰ったんだったな)
「一人で買い物か?」
「ダンに付き合ってもらうことにした」
「・・そうか。いいものが買えるといいな」
翌日も良く晴れて穏やかな天気だった。
「おはよう! エレン。今日もいい1日になりそうだな!」
バルコニーでぐ―――っと伸びをしながら下を歩いていたエレンに声をかけたルカは気分が良かった。
肋骨のケガも完治したし、昨日のウイシュケも悪くなかった。
だが穏やかで平和な時間は長続きしなかった・・。