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黄金の瞳のルカと精霊の呪い  作者: 山口三


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八百屋の家で


 

「ルカ・・あんたって男は・・」

「な、なんだよいきなり」


 横目でルカをジロリと見たパイが呆れたように言った。


「今度は男に手を出したんだね・・」

「なんでそれを・・って、ちがう! 男に手を出したりするわけないだろ!」

「忘れたの? あたし耳がいいのよ。立ち入り禁止区域で話してたの、聞こえたんだから」


 パイとルカは警備隊に依頼のあった仕事先へ向かう途中だった。


「だってダンにキスしたんでしょ?」

「あれは緊急事態で仕方なくだよ。俺は男に興味はない!」

「最近女の子とデートしてないじゃない、だから近場に手を出したのかと思ったわよ」

「お前は俺を何だと思ってるんだ・・」

「だけどダンがあんたを好きになるとはねぇ。あたしが狙ってたのに」

「俺はダンの気持ちに応えてやれないよ・・おっと、ここだな」


 そこは八百屋の店先だった。


「あーあれだ、野菜を盗まれるって事件ね?」

「そう思うか?」


 店の裏手に自宅があるその八百屋はルカ達を自宅に招いた。

 

「2階へお越しください」


 八百屋と言っても手広く商売をしているこの家は使用人やハウスメイドまで揃っていた。その使用人が二人を2階へ案内した。


 その部屋はアトリエになっていた。広い窓からさんさんと太陽の光が差し込み、明るく絵を描きやすい環境に整えられていた。


 使用人が出て行くとすぐ入れ替わりに男が入って来た。


「治安警備隊の方ですね、私はジョン・カテルと申します。これを見ていただきたいのですが」


 八百屋の息子は芸術家だった。30代半ばくらいのジョンは何度か賞を取り、個展を開ける程なかなかの売れっ子らしかった。

 

 その彼が見せたのは何枚かのキャンバスだったが、美しい風景画や人物画の上に文字の様なものが乱暴に書きなぐられていた。


「これは・・酷いですね」

「ええ、初めは悪質な嫌がらせかと思っていたので、窓や部屋に鍵をかけておいたんです」


 鍵を掛けて誰も入れなくしておいたのに翌日またイタズラされ、何も書いてないキャンバスにも意味不明の文字や印が描かれていたそうだ。


「鍵は私しか持っていませんし、念のため就寝時にも首にかけていたんです。なのに翌日にはこの有様で。人間の仕業ではないと思いました」


「確かに人間ではなさそうですね・・それに筆を使ってないですね。何か、別の物に絵の具を付けて書いたように見えます」

「動物の足じゃない?」


 そう言いながらパイが指さした先には肉球の跡のようなものが残っていた。


「何の動物かまでは判断できないな。動物となるとやっぱり妖精の仕業か」

「外国語? この印みたいなのはどこかで見た事があるような気もするけど・・」

「被害に合われたのはここだけですか? 家の中には?」

「ないですね。この私の絵にだけです」


 ルカは小さなノートに文字や印を書き写してからカテル家を辞した。


 一旦、治安警備隊に戻ったルカは過去に似たようなイタズラは無かったかヘイズに尋ねた。


「画家の絵にイタズラか・・」


 過去の事件のファイルを探しに行ったヘイズが持ってきた中には関連性がありそうな事件はなかった。


「絵が関係してるのはこれくらいだな」


 その事件は夫の愛人に嫉妬した妻が相手の家に乗り込んで家財を破壊して暴れ、通報により駆け付けた警備隊に連行されたという物だった。その家財の中に愛人とその息子の絵があって、それをナイフで切り裂いたとファイルには記されていた。


「20年前の事件だし関連性は無さそうですね。あの八百屋に恨みを持つ人物はいないか調査してみます」


(そのついでに明日は街の大きな図書館に行ってみるか)


 治安警備隊の支社を出たルカは別行動を取っていたパイと城に戻った。


 


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