伯爵夫人との会話 パイ開放
翌日コーンウォール伯爵夫人自らがルカの部屋に訪れ、昨日の礼を述べた。
「あの子のせいで大変なお怪我を・・なんとお詫びしていいか」
「決して伯爵夫人のせいではありません。彼は・・嫉妬の感情に飲まれてしまったのでしょう・・」
「あの子はどうなりますか?」
「捕まったら妖精国に連れて行かれると思いますが、ロアになってしまった妖精がどうなるのかわたしにもわからないんです」
伯爵夫人は少し考えてからこう言った。
「あの子の為に出来ることは何でもするつもりです。ですが罪は償わせないといけません。ステュアートさん、あの子を捕まえてください。」
「尽力いたします。それで・・パイに、双子のもう一人の女の子にお会いになる気持ちはございますか?」
「・・いえ。トッドの件が片付くまで会わない方がいいと思います。トッドにあんな気持ちを抱かせてしまったのは私の責任です。ですから最後までトッドの気持ちに寄り添いたいと思いますわ」
そう言った夫人の顔は厳しかったが、ふと寂しそうな微笑みで付け加えた。
「本当は今すぐにでも会いに行きたいのですけれどね、あの子はどんな子に育ったのでしょうか?・・いえ会うまでの楽しみとしましょう。治安警備隊の方の助手をしているんですから立派に育ったのに違いありませんもの」
(強い女性だ。こんな素敵な母親にパイも会いたがるだろうな)
「いつか、必ず会ってあげて下さい」
伯爵夫人は必ずパイに会いに行くと約束して出て行った。
――――
侯爵家の屋敷を出てアルバの街に戻り、ルカとダンはすぐ治安警備隊に向かった。
ヘイズ隊長が出迎えてくれ、事情は首都の警備隊から連絡を貰って了解していると言ってくれた。
そしてすぐパイを釈放して二人の前に連れて来た。
「ルカ、ダン!」
破顔したパイは前に立っていたルカに飛びついて来た。
「おっ、イテテテテ」
パイはびっくりして痛みに歪むルカの顔を見た。
「肋骨にひびが入ってるんだ。お手柔らかにね、パイ」苦笑いしながらダンが説明した。
「まさかまたどこかの女の子にちょっかいかけようとして蹴られたとか?」
「なっ! なんて事言うんだ。名誉の負傷だぞ」
ヘイズ隊長はお腹を抱えて笑っていた。「またとか言われてるぞ。いやいや、笑っちゃいかんな」
(もう十分笑ってますけど)ヘイズを睨みつけたいのを我慢してルカは言った。
「ともかくパイの容疑は晴れたんだ、もう自由の身だぞ」
「うん、お腹空いた!」
――――
「あたしの兄さんはトッドって言うんだ」
途中、レストランでお腹いっぱいステーキを食べたパイと一行は城に戻ってきた。
城のみんなに帰還の挨拶したパイはルカの部屋でこれまでの経緯を聞いていた。
「でもあたしの事が大嫌いなんだね」
「彼は誤解してるんだよ。あまりにも母親の事が大事で、好きで、まるで恋人を取られるような錯覚に陥って・・悪意に飲み込まれてしまったんだ」
「ロアになってしまったら元には戻れないのかな・・」
(戻れるかもしれないと言ってやりたいが、俺にも分からない。期待させるのも酷な話だ・・)
「戻れないかもしれないが、まだ分からないさ。それにパイには母親がいる。本当はすぐにでも会いたいと言っていたよ」
「お母さんってどんな人?」
「強くて聡明な人、その猫の首輪はお母さんが付けた物だと言っていたよ。可愛がっていた猫の首輪だそうだ」
手首に付けた猫の首輪を大事そうに撫でたパイは立ち上がった。
「そっか…ルカも骨が早く治るといいね! 真犯人を見つけてくれてありがとうルカ!」
ベッドに座ったルカの頬に軽くキスして、パイは自分の部屋に戻って行った。




