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ロッシとルカ


 次の朝、俺が起きて居間に行くとテーブルに朝食が用意されていた。


 先に食べていた男はロッシと名乗ったが、彼以外ここには誰も住んでいない様だった。用意された朝食を食べながら部屋を見渡した。昨日は暗くてよく分からなかったが古いアパルトマンだった。だが綺麗に掃除され、部屋も3部屋あり一人住まいには少し広すぎるように見えた。


「あんた、一人なのか?」

「そうだ。ここに居たけりゃ居てもいい。嫌なら出て行っても構わん。だが昨日みたいな事をしてたらロクな人間にならんぞ。いつか捕まって監獄行きになっちまう。それよりかはここに居たほうがましだと思うがな」


 俺は何も答えなかった。

「仕事に行ってくる」そう言ってロッシは立ち上がり廊下に掛かっていた治安警備隊の制服のジャケットを羽織って出て行った。


 隊員だったのか・・。俺は真っ蒼になった。だがあいつは俺を警備隊に突き出そうとはしなかった。

それどころか、ここに居てもいいと・・。どうする?あいつは何で俺に親切にするんだ。


 でももしここで暮らせたらもう食べ物の心配や、雨をしのぐ場所を探さなくて済む。貴族の子供たちからただ貧しいと言うだけで石を投げられたり、殴られたりすることもなくなる・・。


 でも理由が知りたい。大人何て誰も信用できない。


 俺は夜になるまでアパルトマンの周辺を歩いたり、朝の残りを食ったりして時間を潰した。ロッシの家には子供向けの本があったが俺は字を読めなかったから絵だけをぼんやり眺めていた。


 夜になるとロッシが帰ってきた。俺がまだいるのを見るとにっこり笑って言った。

「帰ったぞ」そう言いながらキッチンに食材がぎっしり入った袋を置いた。

「飯の前にお前は風呂だな」


 確かに俺は汚れてボロボロでひどい有様だった。ロッシの家の小さなシャワーで頭からつま先まで石鹸でごしごしこすった。ここで暮らすと決めていた訳ではないのに、なぜか綺麗にしないといけない気がしてた。シャワーから出ると新しい服が用意されていた。


「ちょうど飯が出来たところだ」


 トマトのパスタにパンとスープもあった。


「チーズをたっぷりかけろ」


 ロッシが自分の皿にやったように俺もパスタにたっぷりチーズをかけた。トマトの酸味をチーズが和らげてとてもウマかった。


「あんたは・・なんで俺にこんなにしてくれるんだ?」

 先に食べ終えて俺をじっと見ていたロッシに尋ねた。


「・・俺にはな、妻も子供もいたんだが・・2年前に亡くなってな。男の子だったんだよ」


 なぜ亡くなったのか、俺は聞かなかった。家族を亡くした悲しみをロッシがまだ引きずっている様に見えたからだ。


「・・そっか。この服・・」

「それは俺が息子のために買った物だったんだが、4歳の息子にはまだ大きすぎてな。ハハハッ」


 ロッシはそう言って笑ったが、突然立ち上がって食器をキッチンに運んで行った。ロッシの横顔は悲しみに歪んでいた。


 少ししてロッシはテーブルに戻ってきた。


「お前は、家族や兄弟はいないのか?」

「父さんは居ない。母さんは俺が5歳の時、俺を置いて消えた」


 ロッシは「大変だったな」と言ったきり詳しい事を聞こうとはしなかったし、俺も話したくなかった。



 それから俺はロッシと暮らし始めた。ロッシは治安警備隊の副隊長で町の人々からも信頼が厚く、人気もあった。俺を自分の子供だと紹介し、俺もみんなと仲良くなった。突然現れたロッシの子供だという俺のことを詮索するような人は誰もいなかった。


 警備隊の本部に連れて行ってもらった時は格闘技や剣の稽古も付けてくれた。少し他の子より遅れたが学校にも通うようになった。


 今の俺があるのはすべてロッシのおかげだ。






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