誰が行くか?
「無理ですぅ。私は平民です、そんな所へ行くなんて考えただけで足が震えてしまいます」
エレンは今にも泣き出しそうな顔をしてルカの提案をつっぱねた。
「母さんじゃ年が離れすぎてて違和感がありまくるしね・・」
「前科があるパイは留置所だ・・」
「前科?」
「いや、こっちの話だ」
ルカとダンはキッチンで頭を抱えていた。
事の始まりは車椅子の老婦人、パトリシア・コーンウォール伯爵夫人への面会を断られた事だった。
―――
侯爵家で面会を断られたルカはその足でまた本屋へ向かった。
「あら、お茶に? いいわ、休憩にはちょっと早いけど私一人だし」
(こんなイケメンとお茶なんて・・ふふ、目の保養ね)
本屋の店員はルカに誘われて大喜びでエプロンを外した。
「それで伯爵夫人には会えたの?」
「いや、執事に断られた。それで夫人が外出するときに偶然を装って会おうかと思ってるんだけど」
「そうねえ・・最近はうちにもあまりお見えにならないし・・」
「散歩じゃ世話係が付きっ切りだろうから、また逃げられると思うんだ」
目の前のケーキを美味しそうに食べながら本屋のフローラは何かいい案がないか考えていた。
「あっ! そうだ。弟の侯爵様のお誕生日パーティーがあるはずよ。妹の店がケーキの注文を貰ったって言ってたもの。それに参加するんじゃないかしら」
弟の別邸に住まわせてもらっているなら、弟の誕生日には必ずお祝いに向かうだろうな。
「でも招待状が必要よね」
「それは多分・・なんとかなるよ、ありがとうフローラ助かったよ」
「良かったわ、私で出来ることがあったら何でも言ってちょうだいね」
「ああ、君に相談して良かったよ、ありがとう」
ルカは誕生日パーティーにもぐりこむ算段を頭で巡らしながら城へ戻った。
―――
招待状はジョン・オランダムに頼むと入手してくれた。彼は貴族ではないが貴族と同じくらいの権威がある豪商だった。
だが問題はパートナーだった。エレンは着飾って貴族のパーティーに行くなんて考えられないと、絶対に首を縦に振らなかった。
「マリーナは?」
「うーん、あんまり面識がないしな。色々説明しなきゃならないし・・明日だぞ?」
「見知らぬ客が一人じゃ目立ってまずいだろうね・・参ったな」
この後、バントリー夫人の一言で本当に参ることになるとはダンも予想だにしなかった。
今度は玉ねぎの皮を剥きながらバントリー夫人はその一言を放った。
「坊ちゃまが女装すればいいと思いますよ」
「えええっ、バントリー夫人・・いくら何でも」
ルカが何か言おうとしたがバントリー夫人は話し続けた。
「奥様が昔お使いになっていたカツラがございますし(ええ、当時はカツラでヘアスタイルを変えるのが流行っていたんですわ)ドレスは着丈だけどうにかすれば、坊ちゃまはスリムでいらっしゃるから問題ありませんよ」
「そういうことなら私にお任せください!」
さっきまで泣きそうな顔をして怯えていたエレンがにわかにやる気を見せた。
当のダンはというと衝撃の展開に口をパクパクさせていたが、声になっておらず何を言っているのか分からなかった。
「では奥様の衣装部屋へ行きましょう、ダニエル様お急ぎください!」
「エレン、ちょ、ちょっと待って。僕だって女装してパーティーなんて・・」
「なんとかなりますって!」
自分は絶対になんとかならないと言っていたくせに現金なものである。
その後は上を下への大騒ぎだった。




