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パイの様子


 翌日、朝一番でパイに面会に行ったルカはそのやつれた姿に衝撃を受けた。


「あ、ルカ。来てくれたんだね」

「お・・前、ちゃんと食ってるか? 差し入れ持ってきたぞ」


 山盛りのチキンだったがパイの反応は薄かった。


「うん、大丈夫。チキン食べて頑張るよ」


(本当は大丈夫じゃない、怖いよルカ。あたし、箱行きになったらどうしよう。死んだ方がましかもしれない。このまま何も食べないで死んじゃいたい)


 心では必死に叫んでいた。助けを求めたかったが、パイは気丈な振りをした。どうにもならない事だってある。それに犯人は本当に自分かもしれないんだから。 この国に来たのは間違いだった・・。


「ダンも協力してくれてるんだ、面会は一人だけだからここには来られなかったけど。もうちょっとの辛抱だぞ」


(大分参ってるな。急がないといけない、希望を無くして消滅・・なんて事になる前に真犯人を見つけないと)


 ルカは外で待っていたダンと共にパイの母親を探す為、また首都へ赴いた。

 残すところあと数件だ。面会を断られた屋敷を含めるともっとあるが、面会できないとしたら確認する方法を別に考えなければいけない。



「ここもだめだったね」


 大きな美術館の隣にある侯爵家から出てきた二人は地図を見ながら次の屋敷を探していた。美術館には多くの人が出入りしており、その車椅子の老婦人も美術館から出てきた所だった。


 地図を見ているダンの足元をウロウロしていたピータンが突然、車椅子の老婦人に向かって走り出したのだ。リードを持っていたルカは引っ張られてピータンに付いて行った。


 ピータンが向かったのは老婦人ではなく車椅子を押している若い男性の方だった。


「わっ、なんだこの犬は。シッシッあっちへ行け」その男は足元でクンクンと匂いを嗅いでいるピータンをうざったそうに手で追い払った。


「すみません。ピータンだめだよ」


 そう言いながらピータンを抱き上げたルカは瞬時にその男性をしっかりと見定めていた。


「あの、突然なのですが私は治安警備隊で働いている者です。少しお話を聞かせて頂きたいのですが」ルカはピータンを抱えたまま老婦人に話しかけた。


「ええ、構いませんが・・」老婦人は主に犬に視線を奪われながら頷いたが、若い男性の方が無理やり遮った。


「いえ、夫人は今美術館から出て来たばかりでお疲れです。遠慮してもらいます」


 そう言って車椅子を押し、早足で行ってしまった。老婦人は驚いて男の顔を見上げたが、何も言わなかった。

 ダンは追いかけようとしたがルカが止めた。


「あの男は妖精だ。俺は後を付けるからダンはピータンを連れて待っていてくれ」


 早口にそう言うとルカは距離を取りながら二人を尾行し始めた。


  男は周囲を警戒している様子だったが、美術館からさほど離れていない、とある一角にある大きな屋敷に入って行った。


「待たせたな」


 ルカが戻るとダンはピータンに水をあげていた。「ピータンお手柄だったな! あの男が妖精だって見抜いたのか?」


 ダンと合流し屋敷の近所で聞き込みをした所、あの屋敷は侯爵家の別邸で侯爵の姉が住んでいるそうだ。


「ええ、車椅子のご婦人は侯爵様のお姉さまですわ。とてもお優しい方ですよ。若い男性は奥様の世話係ですね」

 そう教えてくれたのは近所の書店の店員だった。以前よりは減ったがよく本を購入しに来るらしい。


「でもちょっと最近はお屋敷の様子がおかしいですねぇ。人の出入りもめっきり減ってしまって」


 本屋の店員の妹がパンを屋敷に卸しているそうなのだが、使用人の態度がおかしい、話しかけても返事がない時が多いし、みな無表情で黙々と働いている。気味が悪いと言っていたそうだ。


 夫人があの屋敷に住み始めたのは3年前、それまでは外国にいたらしい。ロージアン家の貴族年鑑は5年前の物だった。だから貴族年鑑を基にして探しても見つからなかった訳だ。



 さらに翌日、今度はルカが単独で侯爵家を訪れた。


「夫人はどなたともお会いになりません」


 対応に出た執事が告げた。


「お加減がよろしくないのでしょうか? 今日がだめなら明日伺います」

「いつ来られても同じです。夫人からそう言いつけられております」


 昨日の気さくな夫人の態度からは想像がつかなかった。それに本屋の店員が言っていたように執事の態度もどこかおかしかった。

 

 確かに執事は感情を表にだしてはいけない職業ではあるが、それにしてもこの執事の顔からは感情どころか生気すら感じられない。まるで人形のようだ。


 治安警備隊の仕事だと言っても頑なに面会を断られた。

 何か方法を考えなければ・・・。





 

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