色んな人々
まず地図を広げ、貴族年鑑を取り出した。
70代前後の女性がいる首都の邸宅を調べだし、地図に印を付けて行った。
「この印のある邸宅を全て訪ねて行けば見つかるんじゃないのかな? でもどうしてピータンが必要なんだろう?」
「うーん、何故だろうな。でも一応連れて行こう」
アルバ街の隣がアルパル王国の首都ドーシーだったが城から馬車で3時間弱の距離だった。
アルバに近い方からしらみつぶしに邸宅を訪ねて歩いたが、該当する貴族の邸宅が30件以上もある上に、面会を断られるケースもあって、調査は想像よりも難航した。
「これは・・思ったより時間がかかるな」
「ピータンを連れて行くとなると、手分けして当たるわけにもいかないしね・・」
「今日は次で終わりだな」
そう言って尋ねたのは子爵家のこじんまりした邸宅だった。邸宅からは家政婦が対応に出てきた。
「治安警備隊の者ですが、捜査の一環でお話を伺いたいのですが」
「何でしょう? 夕食前で今は忙しいのですけど」
明らかにイライラしている様子の家政婦がぶっきらぼうに答えた。
「こちらの大奥様にお会いしたいのです」
「まぁっ、なんて無作法な!」
老婦人に面会を求めるのの何が無作法なのだろうか?
「それは・・どういう?」
「殿方お二人で、日も落ちたこんな時間に何ですか! ここが女世帯だからどうにかしてやろうとの魂胆なんでしょう! 治安警備隊なんて嘘までついて! さっさとこの敷地から出ておいきなさい!人を呼びますよ! 誰か~~~不審者よ~~~」
物凄い剣幕でまくしたてられ、ルカとダンは逃げるようにして子爵家の門を出て行った。
「はぁはぁ、なんて・・怖い・・はぁ・・家政婦・・」
「はぁはぁ・・俺たちが悪者みたいだぜ・・まったく」
1ブロック走って逃げて来た二人は息を切らせながら後ろを振り返った。ダンに抱きかかえられたピータンは驚いて体をブルブル震わせていた。
「ピータン、ごめんよ。怖かっただろう・・僕も怖かったよ・・」
「俺もだ。あんなに怖い家政婦は初めて見たよ・・」真顔でルカも同意した。
「・・ぷっ」
二人は顔を見合わせて大笑いした。
翌日は首都の中心部の邸宅を回った。
中心部には高位貴族が多く警備も厳重で簡単には中に通してもらえなかったが、前日の失敗を踏まえて初めに治安警備隊のバッジを見せてから話に入った。
この伯爵家では治安警備隊の人間だと分かるとすんなり通して貰えたが、出てきた夫人がなかなか難しいタイプの婦人だった。
(この伯爵夫人は60代後半くらいだろうか・・これはまた気難しそうな女性だ)
「それでは、わたくしがその妖精の母親ではないかとおっしゃるのですか?」
「その・・そうであればご相談したい事がございまして」
「精霊とわたくしが通じた・・と! なんて・・なんて汚らわしい!」
伯爵夫人はカップに入った紅茶をルカの顔めがけてぶちまけた。その手は怒りでぶるぶると震えていた。
「ルカ!」ダンは慌ててハンカチを取り出しルカの肩や服を拭いた。ルカはハンカチを受け取って顔を拭きながら
「失礼いたしました。あなたは違ったようですね。ですが、精霊が汚らわしいとは遺憾です。精霊石からもたらされる恩恵で暮らしている人間が・・なんともおこがましい」
ルカは立ち上がって夫人を見下ろしながら暇を告げた。
伯爵夫人はルカの発言にますます激高し、何かを喚いていたが二人はさっさと部屋を出て行った。
「色んな人がいるんだね・・エルトンなんか可愛い方に思えてきたよ」
「そうだな、身分が高くてもそれに値するような人間性を持っているかというと・・そういえばあのキザ男を家に呼ぶんじゃなかったのか?」
「そうだった・・すっかり忘れてたよ。だけど・・あんまり気乗りしないんだ」
「そうか・・何を考えてるか読めないような感じは受けたが。一応はお前の味方なんだろ? 一度は招待してやれよ」
「そうだね・・あ、今日は帰る? 服が汚れちゃったし」
残された時間はあと20日。焦る気持ちを抑え、そのまま帰路についた。