レオーニからの返答と精霊の助言
真犯人を探す・・。
そうは言ったものの、手掛かりは黒い動物の毛だけ。ロージアン家の呪いを解けと依頼された時よりはましな程度で、ルカもダンも頭を抱えていた。
パイは翌日治安警備隊に連れられ、留置所に入れられた。
ロッシからの手紙やジョン・オランダムの口添えで妖精管理局に引き渡されるのは1か月の猶予を与えられたが、正直ルカは不安だった。1か月で真犯人を捕まえられるのだろうか・・。
ロッシの元上司、ルカのニッパーとしての能力を鍛えてくれた恩人、マルコ・レオーニにルカは手紙で助けを求めた。
レオーニからの返答には、記憶の混濁があるのは薬か何かを与えられたのではないか、妖精が変化以外に特別な力を持っているとしたら、それは妖精ではなくロアという悪霊だろうと書いてあった。
何かのきっかけで妖精が悪意に染まるとロアという悪霊になってしまうらしいのだ。そういった事例は本当に極稀で、ルカもお目にかかったことは無かった。妖精よりも力を持ち、妖精には無い特殊な能力が発現することがあるという。精霊石がなくても変化できるようになるらしいが寿命が縮まり、ロア化した妖精は3年ほどで消滅してしまうらしい。
最後にレオーニは恐ろしい考えを書いていた。
もしパイがロア化しつつあるのであれば、記憶の混濁はそのせいかもしれない、と。
(それはやはりパイが犯人だ、と言っているようなものだ)
ロアという存在の情報は得られたが、ルカにとっては少しも喜べない内容だった。
ウイシュケの精霊にもう一度会ってみよう。
ルカはダンにアップルパイを焼いてもらうことにした。
(だが、また踊りに誘われたらこいつは踊るかなぁ・・精霊の姿も見えないし、あの恥ずかしい踊りをダンが素直に踊るとは思えない・・)
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しかし何事もなる様になるものだ!
やはり初めは目を丸くして何事か?と驚いていたダンもルカがクソ真面目な顔で滑稽な踊りを踊り、しかも何度も自分を手招きして誘う様に、必要性を感じたらしかった。
恥ずかしそうにしながらルカの隣に立ち、見よう見まねで踊り始めた。
(おっ! 踊るのか?! パイの為にそこまでするとは思わなかったな・・)
「ふむ。お主は・・・」
ダンには見えていなかったがウイシュケの精霊はダンの周りをくるくると回りながら、詳細にダンを見定めていた。
「ふむ。なるほどのう・・・ふむ。これは美味いのぅ・・」 床に座り、ダンが焼いたアップルパイを食べながら精霊は一人で納得していた。
「どうか助けて欲しいんだ、パイの事で・・」
「ふむ。分かっとるぞ」
「パイの無実を晴らす方法を探しているんです。真犯人を捕まえる事が一番だと思ってるんですが、手掛かりがなくて」
ダンはルカの視線の先、声がする方に話しかけた。
「ふむ。以前にパイの母親が近くにいると言ったことを覚えているかな? その母親を探すのがいいだろうな」
「母親か・・今70代前後くらいか。でも70代くらいの貴族なんて一体何人いるか。しかも場所も特定できていないし」
ウイシュケの精霊は目を閉じた。ふさふさの眉毛に隠れて見えなかったが目を閉じた。
世界に星の数ほどいる精霊、妖精。ウイシュケの精霊の脳裏に世界の精霊たちが次々と映りだした。
今、生まれたばかりの土の精霊がとある家のベランダに置かれた植木鉢からひょっこり顔を出した。
もう少し先では美しい馬の形容をした妖精が草原を走り、たてがみをなびかせている。その妖精と同じオーラを纏った人間が近くの厩舎で仕事をしているのも見えた。彼が馬の妖精の親なのだろう。
パイと同じオーラが見える。この人間はパイと同じオーラを纏っているが、それはもっと穏やかなものだ。年を取っているが生命力の輝きは失せていない。
「ふむ。これは運命じゃな。パイは母親の近くに引き寄せられたのだろうな」
「居場所が分かったんですか?!」
「ふむ。近いな、かなり」
「どこなんです?」
「ふむ。分からん」
「ええっ?!」
「この国の最も栄えている場所に母親のオーラが見える」
「・・首都のどこか、か」
「ふむ。ピータンはいい子じゃ。またお前の焼いた菓子が食えるのを楽しみにしておるぞ」
ウイシュケの精霊はじっとダンを見つめながら消え去った。
「行ってしまった・・」
「声だけしか聞こえなかったけど、ルカが言ってた風貌を想像できたよ!」ダンは少し興奮気味な声で言った。
「きっとダンが想像している通りだと思うぞ」
「それで・・さっきのってピータンを使って母親を探せって事だよね?」
すぐ城に戻った二人は早速母親探しの準備にかかることにした。