その手はだれの物?
ルカとダンが近付いてもパイは顔を上げなかった。
「パイ、探したんだぞ」
「ルカ、あたし・・あたし」
「お前じゃないって事くらい分かってるさ」
「でもあたし、最近・・記憶が飛んでる事があるの。今日も夕食後どうやって自分の部屋に帰ったか覚えてないのよ」
パイは泣きだした。ルカとダンはパイを挟んで座り、ダンは上着をパイの肩に掛けてあげた。
「記憶が飛ぶようになったのはいつ頃からだ?」
「黒い毛が見つかった頃くらいから。あの毛、猫の匂いがしたんだ。しかも自分そっくりの」
パイはその時を思い出して身震いした。
「自分がやったという記憶はないんだろう?」
「覚えてないの、でも夢に見たのよ! 寒い場所で沢山の野菜や肉にかざしてる手を」
(食べ物に手をかざしている時のあの気分・・どす黒い憎悪に満ちた・・この世に生きるもの全てが憎い・・そんな気持ちだった)
「パイはそんな子じゃない。誰が何と言おうと僕はパイの味方だから」
「ダン・・ありがとう・・ルカ、心配かけてごめんなさい。あたし・・どうしたらいいんだろ?」
ルカは先刻の捕り物を包み隠さず二人に話した。
「あああ、やっぱりあたしだったんだ」
「そんな! だけどパイが覚えてないって言うんだから・・真犯人がいるんだよ! 真犯人が見つかるまでパイをどこかに逃がそうよ」
「ダン、それじゃあ世間はパイが犯人だと決めつけてしまう。もし妖精管理局に知られたら不味い事になってしまうんだ」
パイの犯罪は2回目とカウントされてしまう、しかも今回は被害の規模も大きい。有罪は避けられないだろう・・。
ルカはパイに向き直った。そしてしっかりパイの手を握って言った。
「パイの身柄を一時的に拘束する。だが管理局に引き渡す前に俺が必ず真犯人を探し出してみせるよ。だが俺一人だと時間的に厳しいかもしれない。ダンは・・アカデミーを卒業したら手伝って貰えるか?」
「僕はアカデミーを卒業したら母さんと一緒に領地の管理と兄さんの蒸留所の事務処理を担当することになってる。合間を縫ってルカの手伝いが出来ると思うよ」
「よし、絶対に真犯人を捕まえるぞ」