トラップ
黒い動物の毛の持ち主が特定できないまま何日かが過ぎた。その間に被害は拡大し、アルバの賑やかな街は人通りも減り閑散としていた。
今では庶民がよく通う酒場も休業を強いられ、開いている店は非食品を扱う店だけだった。
家で食事をすればいいだけだから問題はないけれど、ちょっとつまらない。人々の意見はこんなものだったが、飲食店を経営している側はそうではなかった。治安警備隊にも事件解決の催促がいくつも寄せられていた。
そんな中黒い動物を見た、という情報が警備隊に入って来た。
「その日、洗濯物をひとつだけ取り込むのを忘れていて、夜に外へ出ていたんです。そうしたら食堂の裏手から出てくる動物を見たんです」
その婦人が見た動物は、黒くて猫にしては大きかったが犬にしては尻尾の形が猫のように細くて長かったのだという。
アルパル王国にはピューマの類は生息していない。これは噂で聞く妖精のイタズラに違いないと噂が広まった。そんな中でデブロ家のレストランが営業を再開すると宣言した。
久々の再開にレストランは大賑わいだった。新聞にはデブロの勇気ある行動を称賛する記事も書かれた。
―――
今日もデブロのレストンは大盛況だった。
「よし、じゃぁ戸締りもしたし。みんなお疲れ様~また明日よろしく!」
「チーフ、おやすみなさい」
「わたしは明日おやすみだから、更衣室の鍵を渡しておくね~」
従業員達のやり取りが終わり、明かりも消されレストランの周囲は真っ暗になった。
しばらく経つと、その暗がりの中を動く影がひとつ・・・。
四足歩行でレストランの裏口に近づいた影はドアの前ですくっと立ち上がり鍵がかかっているはずのドアを難なく開けて中へ入って行った。
真っ暗な店内を迷うことなく冷蔵室の前まで行った影は、またもや冷蔵室の鍵を簡単に壊し扉を開けた。
影は保管してある野菜や肉にそっと手をかざした。と、見る間に野菜は萎び、肉は変色していった。フフッとその影がほくそ笑んだ時だった。
「動くな!」
店内の照明が一気に灯され、相手の虚を突きルカの黄金のロープが影を捉えた。
もう影ではなかった。体をよじり、ロープから逃れようともがくその姿は見慣れた少女だった。頭からは黒い猫耳が現れ、長く黒い尻尾を怒りでブンブンと左右に振っていた。
パイだった。
ルカはパイの姿を見て、愕然とした。ほんの一瞬ルカのロープが緩んだ。その一瞬の隙を逃さなかったパイはニヤリと笑ってロープからすり抜け、自分を取り巻く警備隊員をなぎ倒していった。身体能力では人間は敵わなかった。
呆然と立ち尽くすルカに、ヘイズが怒鳴った。
「どうなってるんだ!? ルカ、早く追え!」
だがルカや隊員達が外にでた時にはもうパイの姿は影も形も無かった。