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黄金の瞳のルカと精霊の呪い  作者: 山口三


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リンゴの精霊


「パイ、具合はどうだ?」


 先に帰ったパイは部屋に居た。ノックと共に入って来たルカの声に振り向いて笑っていたが、元気がないようだった。


「大丈夫、疲れただけ」

「夕食は食えそうか?」

「うん、時間になったら降りて行く」


 パイの部屋から出たルカは夕食まで散歩に出ることにした。リンゴの林を歩いていると奥に1本だけかなり古いリンゴの木があった。


 (随分と古い木だな。でもまだ実を付けてるんだな)


「お前、頑張り屋さんだな。いつからここに居るんだ?」


「40年よ」

 

 ルカがリンゴの幹に手を当てて話しかけると、ルカの手の上に白い手が置かれた。


「うわぁっ」


 慌てて手を引っ込めたルカは1歩後ずさりした。


「ふふふっ、びっくりさせちゃったわね」


 木の後ろから色の白い女性が現れた。地面を引きずるほど長い髪は鮮やかなグリーン色をしていた。

 白目がなく、リンゴの様な赤い透き通った目をしている。


「あーびっくりした。幽霊かと思ったよ。リンゴの精霊かい?」


「その通りよ。この木は40年以上ここにいるわ、もうすぐ実もつけられなくなってしまう。でも厳密にはここには500年以上もずっとリンゴの木が立ち続けているの。初めの木が朽ちた後に種から新たにリンゴの木が育ち、またその種が大きくなり実をつけて・・」


「ここのリンゴを見守ってきたのか」

「ええ、途中からはロージアン家の人間が新しい木を植えてくれるようになったわ」

「ロージアン家が呪われた時もここにいたんだね?」


 その時、ルカの後ろで声がした。


「ルカ・・誰と話してるんだ?」


 ダンは訝し気にルカの視線を追った。すると静かな声だけが帰ってきた。


「ふふふっ、またね」


 ダンの目には見えなかったがリンゴの精霊は霞のように消えてしまった。


「精霊が居たんだよ。リンゴの精霊だった」

「そうだったんだ。僕が邪魔したのかな」

「いいさ、きっとまた会える。俺に何か用事か?」

「レストランの調査、どうなってるかなって。・・ね、この先は崖になってて湖が見えるんだ。行ってみないか?」


 ダンについてリンゴの林を抜けると崖の周囲は開けていて湖を一望でき、気持ちのいい風が吹き抜けていた。古い木製のベンチとテーブルが無造作に置いてあり、湖を眺めるには絶好のスポットだった。


「春は野草が花を咲かせてとても綺麗なんだよ。考え事をする時、一人になりたい時によく来るんだ」

「お前のお気に入りの場所なんだな」

「そうだね、東向きだからここから見る朝日も最高だよ」

「朝は・・」

 

 ルカが言いよどむとダンは、「寝坊だもんね、ルカは」とからかうように笑った。


「精霊ってどんな外見なの?」


「さっきの精霊は女性だったな。長いグリーンの髪に赤い目。レナードの所のウイシュケの精霊は白い髭もじゃの小さな爺様」


「へえーっ、ウイシュケの精霊もいるんだ。兄さんとこのウイシュケには精霊の加護があるはずなのに、あんなにまずいんだ・・・」


「お前がそれを言っちゃ・・」

「あ、はは・・聞かなかった事にしてよ」


 以前よりダンはルカと打ち解けて話をするようになっていた。

(最初の頃はダンとこんな風に話すようになるとは思わなかったが、案外悪くないな)


 弟がいたらこんな感じかもしれない、ルカは微笑ましくダンを見ていた。



____



 夕食にはちゃんとパイも降りてきた。食欲も普通にあるようだし、心配はいらないと思っていた。


 ルカは油断していた。パイの様子がおかしい事に気づいていたのに何の手も打たなかったのだ。


 



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