黒い毛
その高級菓子店のオーナーはデブロ家のレストランが同じ現象で休業に追い込まれたことを知っていた為、すぐさま治安警備隊に事件の解明を求めた。
そして不可思議な事件は当然、ニッパーであるルカとパイに調査の依頼が回ってきた。
二人は菓子店の冷蔵室を調査したが、結果はやはりレストランの時と同じだった。
「ステラさん、調査には時間がかかりそうです。ご了承いただけますか?」
「そうですか・・・カフェの方は休業するしかなさそうです。ですが、菓子販売のほうは規模を縮小して続けます。協力は惜しみませんからどうかよろしくお願いします」
そう言いながら、オーナーのステラが袋に入ったものを差し出した。動物の毛らしいものが中に入っていた。
「これ…冷蔵室の掃除をしていた時にドアにこれが沢山ついていたんです。参考になるかしら?」
「黒い毛・・?」
「人間の物ではなさそうですね」
同じ長さの短い毛をルカはパイに見せた。
「!?」
パイはまじまじと毛を見ていたがルカに返しながら言った。
「い、犬の毛みたいね」
「黒い犬か・・・」
ステラの菓子店を後にしたルカは治安警備隊の事務所に戻り情報を集める事にした。パイは気分が悪いからと先に城に帰ってしまった。
マリーナの家、デブロ家は平民の商家だがやり手の父親が手掛ける事業がみな当たり、相当な資産家だった。だが真っ当な商人で、人から恨みを買うようなあこぎな商売はしていなかった。
ステラの菓子店も同じで、祖母の代からの菓子店がステラの手腕で大きくなり、カフェも成功して沢山の貴族の顧客を抱えていた。地元の食材をふんだんに使いアルバの生産業者とも親密な関係を築いていた。
「あとは・・個人的な怨恨か」
そう言った男は、エドワード・ヘイズ。アルバの治安警備隊・隊長だ。ロッシとは違って冷静沈着な頭脳派タイプだ。年齢も46とロッシより若かった。
「愉快犯というのも考えられるが・・なんにせよ手掛かりが少なすぎるな。君の助手の妖精は何て言ってる? 妖精の仕業ではないと?」
「分からないらしい。妖精の痕跡は認められなかったそうだ。この毛髪は犬の毛じゃないかと言っていた」
「そうか・・ならまずは関係者で黒い犬を飼っている者がいないか調査だな」
「犬に絞らないほうがいいと思う。黒い動物で探しましょう。それと従業員とその家族のリストが必要かな」
(この男は・・一見軽薄なようだが物事を見極める目を持っているな。ロッシの息子同然と聞いていたが、信頼していいかもしれない)
ヘイズは心中でルカに評価を下した。