ダンとルカとりんご
自室でルカはロッシに手紙を書いていた。
自分もパイも元気でやっていること。難しい依頼をされたが受けた事。この城の住人や街のこと。
そして、滞在が長くなりそうな事・・。
(ロッシ一人じゃ寂しがってるかな。ここに来てもう2週間だもんな)
2週間経つのに成果といえば、精霊に教わったおかしな踊りくらいだ。ルカはため息をついた。
手紙を出そうと外に出るとダンが大きな籠を抱えて立っていた。ルカの手に握られた手紙を見てダンは言った。
「手紙を出しに行くのか?」
ルカが頷くと、ダンはジュードにそれを任せて自分の用事に付き合えと言ってきた。
「お前の用事にどうして俺が?」
ダンをあまりよく思っていないルカはむすっとして言った。
少し言葉に詰まったダンはルカから視線を外して答えた。
「あんたの助手の用事でもあるからさ。リンゴを取りに行くんだよ。今バントリー夫人にアップルパイの作り方を教わってる」
「パイがアップルパイを・・寒いダジャレみたいだな・・」
「パイが・・アップルパイ・・寒いダジャレだって・・! プハッ」
やけに真面目な顔をしてつぶやくルカを見てダンは吹き出した。
(そんなに面白い事言ったかな・・しかしあいつもあんな風に笑うんだな。いつも仏頂面してるからコイツは笑い方を知らないんだと思ってたよ)
涙を浮かべお腹を抱えて笑っているダンを見てルカは手伝うことに決めた。
東の庭、もとい畑の奥にリンゴの木がずらっと並んだ場所があった。まだ季節的には早く、熟しているリンゴを良く探して取らなければいけなかった。
「この間のマリーナってお前の彼女?」
「なっ、何でマリーナの事知ってるんだ」
3バカに絡まれた時、近くに居た事をルカは告白した。
「俺が止めに入る前にキザ男が来たから俺は手を出さなかったんだが・・」
「エルトンはエルク家の次男でアカデミーの同級生なんだ。マリーナもね。キザな彼は2つ上の先輩なんだよ。うちのアカデミーに留学していた身分の高い外国の貴族なんだ」
「外国の貴族様か、確かに着てる物がキラキラしてたな・・。で、俺はエルク家の回し者と間違われて水をぶっかけられたって訳か」
「あの時は・・悪かったよ。僕が人違いして」
しょんぼりして下を向くダンを見て、本当に反省してようだとルカは感じた。
「まぁいいさ。ところで、お前はここに養子に入ったんだってな。両親を亡くしたって・・・大変だったな」
「あ・・うん。でもここの人に良くして貰ってるから。本当の家族みたいに・・」
ダンの返事には少しためらいが混じっていた。
「そうか、ここの人たちは皆いい人だもんな」
「ルカこそ、親がいないんだろう?」
「父親は失踪した後どうなったか知らないな。母親も俺を捨てて消えたから分からない。そうだな、いないようなもんだな」
ルカは力なくフッと笑った。だが自分の横顔をじっと見ていたダンに向き直り、明るく言い放った。
「でも俺にも新しい家族がいるんだ。俺を拾って育ててくれた人がいる。その人のおかげで今の俺がいるんだ。今の自分に、この人生に満足しているよ」
ルカの笑顔を見たダンはパっと顔を背けた。
(なんで心臓がこんな風に跳ね上がるんだ・・ドキドキして胸が苦しい・・なんだか顔まで熱くなってる・・)
動揺しているダンをよそにルカはどんどんリンゴを収穫していった。
二人は籠いっぱいにリンゴを取ってキッチンに向かった。
パイは悪戦苦闘していた。
肉食のパイが味も分からない菓子を作るのだから当然かもしれない。それに加え、パイは意外にも不器用だった・・・。
ルカが手伝いを申し出たがパイは一人で頑張ると言ってきかなかった。
夕食の後もパイはまたバントリー夫人に頼み込みアップルパイを作りにいった。
それを見たルカが呟いた。
「こりゃしばらくデザートはアップルパイに決定だな」




