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黄金の瞳のルカと精霊の呪い  作者: 山口三


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19/88

ピータンとレナードの職場


 図書室から読み切れなかった資料を持ち出し、部屋のソファで読んでいる時だった。


 ドアがきちんと閉まっていなかった様で1匹の小さなテリアが部屋に入って来た。

「お、可愛いなぁ。こっちへおいで」


 ルカが屈んで犬を呼ぶとテリアは尻尾を振って飛んできた。頭を撫でてやると、ルカの顔をぺろぺろと舐めて喜んでいた。

 すると今度はドアが大きく開いた。


「ピータン、ここに居たのか」

 ダンが部屋に入って来た。テリアはダンを見ると駆け寄って尻尾をフリフリ、足に絡みついたりしていた。


「ピータンっていう名前なのか? 変わってるなぁ」

「東洋にそういう名前の食べ物があるんだよ。・・あっ、お前、何を口に入れた?!」


 部屋をウロウロしていたピータンが屑籠からリンゴの芯を見つけて食べてしまっていた。


「それ、まさか昨日のリンゴか? 全部食べたの?」

「そうだよ。いくら酸っぱいリンゴといえど、食べ物は粗末にできないからな」


 ルカはピータンを抱きかかえソファに座った。

「よーし、いい子だ。芯はうまくないからもう食っちゃだめだぞ」


「粗末にねぇ。なんだか・・ジジ臭いね」

「そうかぁ、ま、そうかもしれないけどね。俺さ、子供の頃、親に捨てられて貧民街を彷徨ってた事があるんだよ。まともな食べ物にありつけるのは2日に1回くらいで、それも食堂の残飯とかでさ。だから食べ物のありがたみが分かるっていうか。そんな感じだ」


 ダンは突っ立ったまま、まじまじとルカの顔を見つめていた。


「おいおい、俺がいくらいい男だからってやめてくれよ。俺はこっち専門なんだから」

 ルカは小指を立てて見せた。


 ダンは顔を赤くしてむきになった。「ばかっ、そんなんじゃないよ! 行くぞ! ピータン」


 犬は飼い主に従順で、ルカの膝から飛び降りダンについて出て行った。


(ちょっとからかわれたくらいでむきになるなんて、僕はどうかしてる・・なんで父さんはあんな奴を家に入れたんだ)



 その答えは父親の書斎に向かってすぐ判明した。


「あのニッパーは呪いを解きにここへ来たですって?」

 母親の声がドアの外に漏れていた。


「もう考えうる最後の手段なんだ」

「でも・・費用はどうするんですか?」

「なんとかなるよ。今年は割と豊作だとジュードも話していたし」

「本当にあなたはお気楽で羨ましいですわ。でも私だって呪いについては心を痛めているんです。本当に呪いを解くことができるのかしら? ダメだった時の絶望に・・・耐えられるかしら」

「そう信じるしかない。君も協力してあげてくれ」


 ロージアン伯爵は妻の手をそっと握った。―短剣を処分した事は言わないでおいた方がいいな・・今は。


 ドアの外に居たダンは中に入らずにピータンを抱えて部屋から離れた。

 (もう10年経つんだな。そしてこの10年、家族みんなが辛い思いをしてきたんだな・・・)




 その頃パイはというと・・・


「ねぇレナードの仕事場にあたしも連れて行ってよ」

「いいけど・・。城は退屈かい?」

「そういう訳じゃないわ。色々見て歩いて、話を聞くのが私の役目なの。」

「そうか、君はルカの助手なんだね」

「有能なのよ!」

「それは頼もしいね」レナードの笑顔は小さな子供に向けるような優しさに満ちていた。


「俺はね、ウイシュケというお酒を造っているんだ」

 

 レナードは馬で仕事場である蒸留所まで通っていた。100年前に作られた蒸留所は深い森の中にあった。

 

「蒸留所内は好きに見て来ていいよ。帰りたくなったら声を掛けてくれ」


 レナードに言われた通り、パイは工場内をあちこち見て回った。まだ酒の味も分からないような少女がうろちょろしているのを見て、工員は驚いていた。


「あっ、気にしないで。あたし工場長の家に滞在させてもらってるの。今日は見学に来たのよ」


 (失敗したなぁ、もうちょっと大人の姿に変化しておくんだった。子ども扱いされて面倒くさいったらないわ)

 パイがそう思うのも無理は無かった。この姿の主のベアーズ伯爵令嬢は実年齢より幼い外見だった。


 パイが蒸留釜のある場所を見ていた時だった。大小様々な蒸留釜が立ち並ぶ一角に、ちょこんと座り込んでいる老人が見えた。老人はパイの視線に気づいてパイを手招きした。

 


 

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