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黄金の瞳のルカと精霊の呪い  作者: 山口三


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18/88

ルカは悩む


 ルカは自分の部屋で頭を抱えていた。

 

 いや、悩む必要はない。いくら高額の報酬を前にしてもこんなのは無理過ぎる。それに本当にあんな金額を伯爵は払えるのだろうか?


「ルカ、どうするの?」

「どうするも何も、断るよ。精霊や妖精からのヒントだけで解決できるとは到底思えない」


 珍しくパイが真剣に考え事をしていた。「あたしはやるべきだと思う」


「報酬に惹かれたか? でも成功しないと貰えないんだぞ」

「そうじゃない。何というか・・・・野生の感みたいなものかな。あんたなら出来るよ。あたしも付いてるんだし。あと2、3回なら変化できると思うから役に立つよ」


「うーん、だけどなぁ」

「ルカって意外と優柔不断なのね。だからマリアに勘違いされるんだわ」


 煮え切らない態度のルカに愛想をつかしてパイは部屋から出て行った。


 (少しぶらついてくるか・・)

 ルカは城の中を見て回ろうと思ったが、城内は暗く明かりも消されていて散策は無理そうだった。

 

 水でも飲んでから寝るか。食堂の近くにキッチンがあるだろう、と階下に降りて行き目当てのキッチンに入って行くと、大きな作業台の前にダンが立っていた。


「あれ、お腹空いたの? あんなに食べたのに?」


 いちいち嫌味なヤツだな・・。俺、こいつ大っ嫌いだ。


「いや、水を貰おうと降りてきた」

「ふーん」


 ダンは食器棚からグラスを取り出し水で満たした。そして作業台の上の籠に入っているリンゴを取り出した。「はい。うちで取れたリンゴ」


(おっ、親切な所もあるのか。もしかしていい奴だったり・・)


 水の入ったグラスとリンゴを手渡されたルカは、なんとなく作業台の前の椅子に座った。

 ダンは立ったままルカの様子をじっと見ていた。


 水を飲み干したルカはリンゴを一口かじった。リンゴは好物だった。真っ赤で小ぶりなリンゴはとても美味しそうだった・・のだが、予想とは反して強烈な酸味が口いっぱいに広がった。


「おっ、酸っぱい・・」

「ハハッ、変な顔! アップルパイ用のリンゴだからね。じゃお休み!」


「あんの野郎、わざとだな」


(前言撤回、絶対いい奴なんかじゃない!)


 しかし食べ物を粗末にしてはいけない。ルカはリンゴをかじりながら部屋に戻って行った。




 翌朝、朝食の後でルカは依頼を受けると伯爵に告げた。


「そうですか! 引き受けてくださいますか。ああ良かった。ええと、城の中はどこを見ていただいても構いません。ただ危険な場所もありますから気を付けてくださいよ。何せ古い城ですから。ロージアン家の記録は図書室に保管されております。用事は執事かジュードという使用人に申し付けてください。それから・・・・」


 伯爵は・・その・・おしゃべりなんだな。


「分かりました! まずは図書室に行ってみます」


 まだ喋りたそうな伯爵を置いてルカは図書室に向かうことにしたが図書室の場所を聞くのを忘れていた。

 誰かに聞こうとウロウロしているとエレンが洗濯物の山を抱えて歩いていた。


「すまないけど、図書室の場所はどこかな?」

「図書室でしたらお客様のお部屋の階の反対側の階段を下りて、西側に向かって歩いて最初の左の角を曲がって3番目の扉が図書室でございます」


 ・・分かるだろうか。ルカの不安をくみ取ったエレンは洗濯物を置いてからご案内致します、と申し出た。


「じゃぁそれ俺が持つよ、貸して」ルカはそう言うなりひょいっと洗濯物が入った大きな籠を持ち上げた。

「あっ、お客様にそんな事をしていただくわけには・・」

「俺、ルカって言うんだよね。お客様なんて他人行儀なのはちょっとな。これからしばらくここでお世話になることになったし」


 エレンは納得してリネン室まで洗濯物を運んでもらった。

 

 (ここのご兄弟とはまた違ったいい男ね・・・何というかワイルドな魅力というか・・)

 ルカの広い背中、鍛えられた逞しい腕にエレンは見惚れていた。


「あれ? 新しい使用人?」

 

 リネン室に着くとルカと同年代位の男が驚いていた。


「ううん、昨日来られたお客様よ。運ぶのを手伝ってくれたの」

「ルカだ、よろしく」

「どうも。ここで使用人をやってます、ジュードと言います」


 明るい赤毛が印象的なジュードは(まぁ貴族じゃないみたいだし、信用してやるか)といった体で差し出された手を握り返した。


 その後、図書室に案内してもらったルカは本格的に調査を開始した。


 真っ暗な夜、手探りで霧の中を進むような気分だった。




 



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