アルパル王国からの手紙
ルカに手紙が来たのは夏の暑さも和らいだ頃だった。
それは以前公園で倒れていた所を助けた、あの旅行者からだった。彼はアルパル国の商人で、無事祖国に帰りついた事、命を助けて貰った礼が述べられていた。
そして祖国にニッパーの助けを求めている知人がいるので、どうかもう一度助けてもらえないだろうか?
という内容だった。
「え?アルパル王国?なんでそんな遠くに?向こうにだってニッパーくらいいくらでもいるんじゃないの」
横で聞いていたパイが当然の疑問を投げかけてきた。
「お前のせいだぞ」
「えええ、どうしてよ!?」
その理由はこうだった。
この商人は商用でこのビタリ帝国に来ていたが、あの夜は強盗に襲われ公園に逃げ込み、強盗をまいたのは良かったが、心臓発作を起こしてそのまま倒れてしまったらしい。
暗い公園の奥に倒れていた自分をなぜ発見出来たのか調べた商人は、ルカが変化した妖精を連れて仕事をしているからだと知ったという。
この世界にニッパーは数知れど、妖精を従えているニッパーは聞いたことがない。だからルカにならその知人を助けられるのではないか、と考えたそうだ。
「な?お前のせいだろ」
ルカは軽く言ったが、ロッシは心配そうに聞いて来た。
「それじゃあパイも連れてこいって事なんだな?」
「ああ、旅費も向こうが全て持ってくれるらしい」
それを聞いたパイの目が輝いた。
「行こうよ!あたしアルパル国なんて行ったことない。旅行ができるじゃない」
「だが、依頼の内容が書いてないのが気になるな」
「俺もそれが気になってた」
「話を聞いてみて無理そうなら辞めればいいじゃない。ねー行こうよー、行きたいよー」
ルカとロッシは顔を見合わせた。
「無理そうなら・・か。そうするか。ロッシ、行ってもいいかな?」
「そうだなぁ、警備隊の方は休職扱いにしておくか・・」
パイは大喜びして、ロッシに旅行カバンはどこだ?新しい服を買うから金が欲しいなどと、矢継ぎ早にまくしたてていた。
それから準備に5日ほどかかった。
旅に着ていく服で迷っていた・・・訳ではなく、手紙を寄越した商人の事を少し調べていたのだ。
ジョン・オランダムというその商人はアルパル王国の首都に本社を構える貿易商で、国でもよくその名を知られている豪商だった。
出自はしっかりしているし、会社にも怪しい所は見つからなかった。何か裏稼業などをしているわけでもなさそうだ。
外国人だったので調査に時間がかかったが、信用できそうだということでアルパル行は本決まりになった。
「アルパルの首都に向かうのか?」
「いや、アルパルの北西にある、アルバという街を指定してきたよ」
「気を付けて行け。面倒な依頼だったら無理せずすぐ帰ってこい」
「心配するなって、ガキじゃないんだから」
俺にとってはお前はいつまでも小さな坊主だ。ロッシは思っただけで口には出さなかったが、たとえ血は繋がっていなくても親が子を思う、当然の気持ちだった。
―――
アルパル王国までは汽車で1日半、そこから乗り換えて6時間、駅から馬車に揺られて2時間。
初めての旅に浮かれ、はしゃいでいたパイも馬車から降りる頃にはぐったりとして話す気力もなくなっていた。
だが馬車が止まった場所は屋敷の目の前――ではなく石造りの長い橋の前だった。
「ここの橋は狭くてこの馬車では通れません」
そう言いながら荷物を地面に置き去りにして御者は去って行ってしまった。
「えええぇぇ、この荷物持ってあそこまで歩くのぉ?」
前方に見える建物まで500mはゆうにありそうだった。