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黄金の瞳のルカと精霊の呪い  作者: 山口三


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10/88

理由


 朝早くから警備隊に顔を出したルカを見て、隊員たちは驚いていた。


「お、ルカ。今日は随分早起きだな」

「ルカがこんな早く出てくるなんて今日は雪だなぁ」


 からかう隊員たちを無視して地下に降りて行くとパイはぐっすり眠っていた。

 床にはパンが転がり、ミルクがぶちまけられていた。


 ルカは鉄格子を軽く叩いた。


「うっ、あぁ~何よぉ、うるさいわねぇ」

「ネコは夜行性だもんな。ま、いいから起きろよ」


 こちらを振り向いたパイはダルそうにしている。


「お前、食い物を粗末にしちゃいけないんだぞ」

 ルカは床をモップで拭きながら文句を言った。


「あたしはそんな物食べられないわよ、ね、何かいい物を持ってきてくれたんでしょう? 早く頂戴よ」

 パイはもう我慢できずに鉄格子を掴んで鼻をクンクンさせている。


「仕方ない、何も食ってないんだろ。ほら」


 ルカが持ってきたのは焼いた骨付きチキンだった。紙のボックスに山盛りのチキン。香ばしい匂いが食欲をそそる。

 鉄格子の前に置かれたチキンをパイは骨ごとバリバリと貪った。


「お前さ、何であんな事したんだ? 管理局行きが恐ろしい事だと知っていたんだろ?」

 チキンに夢中になっているパイにルカは質問してみた。


「・・・あたしは贅沢が好きなのぉ。貴族の令嬢になったら好き放題できるからに決まってるでしょぉ!」


(贅沢したいだけで管理局行きの危険を冒すか?)


 パイはチキンの骨にしゃぶりつきながら、

「ねぇ、まだ別のいい匂いがする。勿体ぶらないでよ。あたしにくれるんでしょ?」

「さすがに鼻が利くな。酒だよ、飲みすぎるな」

「ハンッ、そんな人間の酒であたしが酔う訳ないでしょ」


(どうかな・・・これはただの酒じゃないぞ・・)


 15分後・・・ルカの予想通り、パイはべろんべろんに酔っぱらっていた。


「はぁ~おいしかった。あんたやっぱりあたしに気があるんでしょう? だから差し入れしてくれたのね。いいわ~あたし気分がいいから、あんたの言うこと聞いてあげるわ」


 ルカはじっとパイの顔を見つめた。


「さっきの話。本当に贅沢がしたいだけか? 本当に? 俺はお前の力になってやりたいんだ」


 パイはトロンとした目つきでルカを見た。

「ええ~ほんとにぃ。いい男にそんな事言われたら本気にしちゃうじゃなぁい。えっとねぇ・・妖精は精霊と他の生き物との間に生まれた存在って事は知ってるわね?」


 パイの話はこうだった。


 今まで自分はネコと精霊の間に生まれた妖精だと思っていた。

 だがある日純度の高い美しい精霊石を手に入れ、変化して実体化し、ネコの姿になり街を歩いていると、年老いたネコが自分の母親とそっくりだと話しかけてきたそうだ。その母親は随分と長生きしたネコで、その母猫の飼い主が精霊と結ばれて妖精が誕生したのを見たと話していたという。


 それを聞いたパイはその妖精が自分なのではないかと思い始めたという。飼い主の、猫への思いが今の自分の姿かたちになったのではないか、と。


 その母ネコの飼い主は貴族だったため、自分のルーツを詳しく知りたくて伯爵令嬢に化けたのだそうだ。貴族なら何かしらの情報が得られると考えたらしい。


「もう40年経ってるからさぁ、その・・あたしの母親が生きててもおばあさんで、あたしの事なんか覚えていないかもしれないけど。一目会ってみたかったのぉ。ま、何の情報も得られなかったけどね」


 そう言うとパイはゴロンと床の上に寝転がり、そのままスースーと寝息をたて眠りこけてしまった。


「母親に会いたい、か・・・どうやら本当の事らしいな」


 ルカは隊長室へ向かった。


「ルカ、首尾良くいったか?」

「ああ、多分本音を聞けたと思う」


 先ほどの顛末をルカは語った。


「それでもまだ悩んでるんだ。あいつを信用していいか分からない」

「俺も一度話をしてみるよ、ほれリンゴでも食え」


 ロッシが投げてよこしたリンゴを一口かじったルカの顔が歪んだ。


「うわ、なんだこれ」


 かじったリンゴの断面にキラキラ光る物が顔を出していた。薄青い色をした精霊石だった。

 と、見る間にリンゴは冷たくなり、カチコチに凍ってしまった。


「氷属性の精霊石か、いいものが出たな。これはきっといい兆候だよ」リンゴを覗き込んだロッシが言った。


「俺は自分の歯の方が心配だよ」


 午後になったらパイと話をしてみるというロッシに頼まれ、ルカは郵便物を出しに外へ出て行った。

 


 





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