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アフターファイブの資料室

この回はセリフのみでお送りします。

「この写真貰っちゃっていいんですか? ローガンさん」


「ああ。詐欺に使われたものだが写真自体は普通の写真だからな」


「じゃあ遠慮なく。ありがとうございます」


「タクミこそそんな写真でいいのか?」


「え?」


「ポートレートが欲しいなら、もっとちゃんとしたものを撮ってやるぞ」


「ああでもほら、これ私と一緒に庭が写ってるし。これからは定期的に除草作業が入ることになってるから、こういうのはもう撮れないでしょう?」


「……そうだな」


「それにしてもホントに草ボーボーですねぇ。つい最近までこんなだったんだ、なんか懐かしい」


「タクミは『ありのままの庭』が好きだと言ってたな」


「ええまあそうですけど、あれは単に無精で放置してたのもあるんで。皆さんのお陰でスッキリ綺麗にしてもらえて良かったですよ?」


「いや……そうか」


「なんだよタクミ。お前あんな雑草だらけのしょぼい庭にこだわってたのかよダセエ。そんで他人をこき使って庭を手入れさせたってか? 酷え奴」


「……だからなんでここにいるんですかアーチーさん。しょぼくて悪うございましたね! あれでも先祖代々受け継がれてきた大事な庭なんですよっ。日本の侘び寂びが分からないアメリカの魔男ストーカーになんか、理解してもらわなくて結構です! それに手伝ってくれた方にはちゃんとお礼しましたよーだ!」


「誰がストーカーだ!」


「あ、もうこんな時間。私そろそろ帰ります」


「おい無視すんな」


「お疲れ様でしたローガンさん、お先に失礼します」


「ああお疲れ。また明日」


「ちっ」






「……まるで小学生だなアーチボルド」


「んだよ」


「はっきり言わないと分からないのか? 好きな子にちょっかい出して嫌がられる小学生男子みたいだと言ってるんだ」


「けっ。誰があんな貧乳、俺の趣味じゃねえつってんだろ」


「なら何故彼女の周りをうろついて日本から離れないんだ」


「………」


「お前はいろいろ問題も多いが、古い血筋をひく優秀なウィッチだ。緊急の仕事は無いと言ったが、フィンランドに新しい特異点が出現したと聞いているぞ。ゲート作成に呼ばれているんじゃないのか」


「うるせえ。余計なお世話だローガン。それに今は寒い場所には行きたくねえ」


「日本もこれから寒くなるぞ。何をそんなに意固地になってるんだ」


「俺は『修復師(コンサヴァター)』だぞ。修復の要の『鍵』の在り処が分かってるのに手が出せねえのが気に入らねえ。あいつが何かにつけ突っかかってくんのも気に入らねえ。希少なアルウラネを手懐けてんのも気に入らねえ。それにあの悲壮感のかけらもねえ呑気な顔を見てると無性に腹が立つ」


「タクミが突っかかるのはお前が煽るからだろうが。呑気で何が悪い。何も考えてなさそうな笑顔は可愛いじゃないか。何故腹が立つのか俺には理解不能だ」


「俺はお前の『可愛い』の定義が理解不能だローガン。それに微妙にあいつを馬鹿にしてねえか?」


「してない。それにさっきの庭の事だが」


「なんだよ」


「あの庭があちらに存在していた時そのままの形で出現したのは知ってるな?」


「おう」


「タクミは長い間あの庭に手を入れさせなかったし、縁側で庭を眺めている事が多かった。それはあの庭のそのままの姿が、彼女の遠い故郷を思い出す(よすが)のひとつだからだ」


「………」


「いくら納得ずくでも、それが無くなって何も思わないことがある筈もないだろう。どんなに呑気に見えてもタクミは普通のか弱い女性だ。それくらいはお前でも理解できるだろうアーチボルド」


「……それはまあ。……悪かったよ」


「謝る相手は俺じゃないタクミだ、彼女に謝れ」


「……お前今日はぐいぐい来るな」


「それにだなアーチボルド」


「なんだよ。まだなんかあんのかよ」


「俺はタクミ……今の『甲種特』が、六年前のものと違って呑気な性格で良かったと思っている」


「六年前の? って『あの』転移物の事か?」


「そうだ」


「そういやあれも知能を持った生き物だったな。分類は『甲種特殊転移物』略して『甲種特』。人型じゃねえがタクミと似たようなもんか」


「彼女とあれを一緒にするな」


「へいへい」


「あの『甲種特』とは最後の最後まで対話(はなし)が出来なかったんだ。そもそもこちらの話を聴く気があったのかどうかも、今となっては分からない。結局、急激な環境変化に耐えられず状況も理解できないまま、三日と経ないうちに発狂した。発狂しただけでなく、狂乱状態になったあれは暴れ回って隔離室を破壊した挙句、最悪な事に所員に重症を負わせてしまった。とにかく力が強くて誰も手出しができず、その時アレクシアが不在だった事もあって、当時研究所の警備主任だった俺の判断でその場で『処分』した。確かにあれは人型ではなかったが、質量が成人男性と同じで血液が赤かったから現場は酷い有様になった」


「うはあ。情景が思い浮かぶぜ」


「だからだ」


「ぅん?」


「タクミは冷静に状況を把握して受け入れ、周囲との軋轢を生まないように気を使う。温厚であまり物事を深く追求せず悩まないこだわらない。そういう()()()()()()()で呑気な性格だからこそ、この世界にたったひとりで放り出されたのに狂わずにいてくれる」


「そういうのは『図太い』とか『鈍感』とか言うんじゃねえの?」


「それでも構わない。不安や恐怖に押し潰され全てを否定し、心を病んでしまうよりはずっと良い」


「お前もアレクシアも随分あいつに入れ込んでるが、あれの何がそんなにいいのか俺にはさっぱり分かんねえ」


「会って数時間で、気安く『アーチー』と愛称で呼ばれたお前には理解できないだろうな」


「そういや二人ともえらくこだわってたな」


「呑気者で物事にあまりこだわらないがタクミは鈍いわけじゃない、寧ろ感受性は豊かだ。出現当初にこの世界の人間に酷く傷つけられたことで、その後ずっと俺やアレクシアとの間に一線を引いていたんだ。笑顔で話をしていても、見えない壁があるようで何とももどかしかった」


「で、それを飛び越えたあいつに名前を呼ばれて喜んでたのか。意外と単純だなお前」


「なんとでも言え」






「おい。お前たちこんなところで何をしている。とっくに終業時刻は過ぎているぞ」


「酒盛り。アレクシアも()る?」


「職場に酒を持ち込むな愚か者。家飲みを気取るなら自分の部屋でやれ。しかもここは資料室だ。ローガン、お前がいながらなんだこれは」


「すまん。タクミに絡むアーチボルドを諫めているうちに、何となく流れでこうなった」


「別に絡んでねえよ。だってよー、俺の部屋寝具以外はなんもねえし、ひとりで飲んでも楽しくねえじゃんか」


「そもそもあそこは()()()()()()()()()しな、不法占拠者のアーチボルド()。ローガン、その後タクミの様子はどうだ?」


「渡された魔道具の確認の為に写真を撮ったんだが、微妙な顔をしていたぞ」


「うむ。失敗作の魔道具だったが意外なところで役に立って良かった」


「あれホントは『インビジブルリング』なんだろ? はは。顔だけ歪んで半透明とかウケるよな〜」


「ウケているところ悪いがアーチボルド。手元に抱え込んでいる修復師(コンサヴァター)を早く寄越せと、フィンランドが私に直接『苦情』を寄越したぞ」


「げっ。アレクシアにも連絡したのかあいつら。くそ余計な事を……!」


「勝手に居座られている筈の私が苦情を受けるとは、()()()()()()()()()()()()()()()アーチボルド」


「さて俺はそろそろ帰るか」


「あってめえローガン! 俺を見捨てんのかっ?!」


「今日も一日ご苦労だったなローガン」


「ああ。ではまた明日なアレクシア。()()()()アーチボルド」


「ばっ! 何を頑張れってんだよっ不吉な事を言うんじゃねえ!」


「さて優秀な修復師(コンサヴァター)魔男(ウィッチ)アーチボルド。この魔女(ウィッチ)アレクシアに何か言い残す事はあるか? ん?」


「Shit! Hey, wait! Please do something, Logan!!」


「Are you ready? Archibald」


「Oh my God!!」


「ふ。Not a god, i'm() a() witch()






(To be continued……)

ローガンがいつになく説教臭く饒舌なのはお酒のせいです。


そしてパニックで突如母国語で話し出すアーチボルドにそれを面白がるアレクシア。


「おいこら待て! 何とかしてくれローガン!」

「覚悟はいいか? アーチボルド」

「オーマイガッ!」

「ふ。神ではない魔女だ」


……適当英語なのでニュアンスでお楽しみ下さい。

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