ロッタのまほうのつえ
とおいむかし ちいさなくにの ふかいもりに
まほうつかいのせんせい と おとこのこが すんでいました
おとこのこの
なまえは ロッタ といいます
いちにんまえの まほうつかいになるために
きょうもたくさん まほうを れんしゅうしていました
だけど
まほうはいつも しっぱいばかり
まほうつかいの せんせいから もらったつえは
ぼぉっと くろいけむりを はきだしました
「せんせいみたいに すごい まほうを つかいたいな」
ロッタは つえをたたいて ためいきをつきました
ロッタのつえは とてもふるくて ぼろぼろで
すごいまほうも つかえません
それでも ロッタは
このつえが だいすきでした
まほうは だれかを たすけられるちから
じぶんのまほうで
だれかが わらってくれるなら
ロッタは とても しあわせでした
そんな あるひの ことでした
ロッタの いえに
おんなのこが やってきました
「まほうつかいさん おねがいです
わたしの いもうとを たすけてください」
おんなのこは あかちゃんを おんぶしていました
あかちゃんは くるしそうで
ロッタは たすけてあげたい とおもいました
だけど ロッタの まほうは しっぱいばかり
「たすけられない」
こまったロッタが くびをふると
おんなのこは なきだしました
そのとき
ロッタの あたまのなかで
つよいひかりが はじけました
「そうだ
せんせいの つえを つかえばいいんだ」
ロッタのせんせいは
すごい まほうつかいです
せんせいのつえは
どんな ねがいも かなえてくれる まほうのつえでした
せんせいの まほうのつえが あれば
あかちゃんを たすけられる
ロッタは まほうのつえを
いえから かってに もってきてしまいました
「ちょっとだけ かりるだけ」
ロッタの むねは
ちょっとだけ ずきりと いたみました
まほうのつえを ひとふり すると
あかちゃんは すぐに きゃっきゃと わらいだしました
「ありがとう まほうつかいさん」
おんなのこは なんども おれいをいいました
ロッタは とても うれしくなりました
まほうのつえが あれば
たくさんの ひとを たすけてあげられる
だけど
まほうのつえは せんせいの つえです
ロッタは すこしだけ なやんで
たくさんの ひとを たすけるために
まほうのつえを もったまま たびに でたのでした
ロッタの ふるいつえは
ロッタに すてられて はっぱに うもれていきました
ロッタは まほうのつえで
たくさんの ひとを たすけました
びょうきのひとを なおしたり
けがをした どうぶつを なおしたり
たべものがなくて こまっている ひとには
いろんな たべものを だしてあげました
いつのまにか ロッタの まわりには
たくさんのひとが あつまっていました
まほうのつえで ねがいを かなえると
みんな えがおに なるのです
ロッタは とてもしあわせでした
まほうのつえが あれば なんでもできる
ロッタの こころに あった
ずきずき とした いやなものは
いつしか きえていきました
まほうのつえが あれば
どんな ねがいも かなえられました
おいしい おかしも
きらきらとした ほうせきも
おおきな くにの おおさまにだって なれたのでした
ほしいものは なんでも てにはいります
いつしか ロッタは
たくさんの ひとに かこまれても
しあわせでは なくなって いました
あるよる
ロッタは まほうのつえを ひとふりしました
「せかいじゅうの しあわせが ぜんぶ ほしい」
まほうのつえは
どんなねがいも かなえる まほうのつえ
だけど
ロッタの ねがいに まほうのつえは
ぼきり
まっぷたつに おれて きえてしまいました
まほうのつえは
どんなねがいも かなえる まほうのつえ でした
つえを なくした ロッタの まわりからは
いつのまにか だれも いなくなっていました
ロッタが ないても だれも ふりかえりません
ロッタが さけんでも だれも きづいてくれません。
ロッタはひとりぼっちでした
まほうのつえは せんせいのもの
いままでのものは
ぬすんだ ちからで てにいれたもの
ロッタは じぶんの おろかさに なきだしました
さいしょは だれかを たすけたい
それだけ だったのに
そのきもち だけは ほんもの だったのに
かりものの ちからで てにいれたもので
そのきもち さえ うしなってしまった
じぶんには なにも のこっていない
ロッタはひとり
じぶんの ふるさとへと もどっていきました
ロッタがいなくても
ふるさとは なにも かわっていませんでした
それがさみしくて
それがかなしくて
ロッタは なみだを ながしました
じぶんを まっている ひとは だれもいない
ロッタが すわりこむと
めのまえに いっぽんの ふるいつえが ころがっていました
ふるくて ぼろぼろで
なんの ちからもない
それは ロッタが すてた つえでした
つえを にぎると
あったかい きもちが ひろがっていきました
むかし
ロッタは このつえが だいすきでした
すごい ちからなんか なくても
ロッタの まほうで だれかが わらってくれた
そんな ちいさな しあわせが
そんな すこしの やさしさが
ロッタは だいすき だったのです
ロッタが かおを あげると
なつかしい ひとが わらいかけてくれました
「おかえり」
そのことばに ロッタは
ぐちゃぐちゃの えがおで うなずきました
「ただいま」
たいせつなものは いつだって そばにある
おわり