080 いざ奉活へ
本日は、2話投稿しています。読み飛ばしにご注意ください。
六月に入った。
相変わらず授業が分からない。
このままだと定期テストがヤバいことになる。
中学までの知識は記憶に入っているので、あとは俺の努力だけ。
ではなぜ、授業が分からないのか。
ハードのスペックがよくても、OSがポンコツだと駄目なのかもしれない。
「学年が上の方に聞きましたところ、試験問題の配慮はあるそうですよ」
橋上さんが、うふふと指を一本だけ立てる。
「配慮?」
まさか不正とか?
「各教科の試験問題ですけれども、30%はだれでも解ける超基本問題、40%は標準問題で、ここができるかどうかが成績で重要になってくるそうです。そして残り30%が応用問題。努力した方のみが解くことができるといいます」
「つまり30%分、下駄を履かせてくれるわけか」
全員が解けるのだから、成績に関係ない部分だ。それで勉強が嫌いな男性の自尊心を満足させるのだろうか。
「成績もおそらくは真ん中あたりをもらえるようです」
「それでいいの?」
学校の成績と試験の点数は直結していない。
成績は、授業態度や提出物などあらゆるものを総合評価したものなのだから。
「成績を理由に、退学や転校をされては困ります……と大っぴらには言えないでしょうが、総じて男性は真ん中の成績を取るとか、そういうことですわ」
授業がわからない、試験が難しい、成績が振るわない。
そんな理由で男性が次々と去ったら、同じクラスの女子……の親たちがキレるだろう。
聞いた話では、横の繋がりが結構あるらしいし、騒げば大きな問題となる。
翌年、受験を考えている親たちもいる。
推薦で強引に招いておいて、成績が悪いから追い出すのかと言われたら、学校側の立場がない。
かといって、授業についていける男性を集めるなら試験が必須だ。
だがそもそも、希望者はゼロなのだ。
今までのような集め方を辞めれば、女子しかいない名ばかりの共学校の出来上がりだ。
「もしかして俺、学校側から期待されてない?」
「テストの点数など、その人を構成する要素のほんの一つに過ぎませんわ。代えがたい存在である殿方に、点数が平均点より10点、20点低かろうが、その価値はいささかも揺るがないと考えていると思います」
おそらく低いのは20点どころではないだろう。まあ、そこまで言わないが。
そして橋上さんの言う「価値」については分かる。
容姿の優れた男性が同じクラスにいるだけで、女子にとって価値があるのだ。
いまさら客寄せパンダと言われても気分を害するつもりもないし、そもそも「もっと寄ってきてくれ」というレベルなので、俺の場合はまったく問題ない。
学校側がそう考えているのなら、少しだけ気が楽になる。
いきなり成績が下がると家族が心配するが、もともと偏差値が高い学校なのだ。
裕子すら落ちるような学校に通っているのだからと説明すれば、わかってくれる。
「そうだね。試験の点数は気にしないことにするよ」
そう言ったら、横で聞いていた菊家さんに「それでも少しは勉強した方がいいですよ」と言われた。
解せん。いや、言いたいことは分かるけど。
翌日、ついにこの日がやってきた! 奉活だ!
もう楽しみすぎて、早朝のランニングに行く前にシャドーボクシングまでしてしまった。
ジョギング、柔軟、筋トレを終えて、シャワーも浴びた。つまり、準備は十分だ。
「奉活のときは、制服でいいんだよな」
早々に着替え終えたので、時間が余りまくっている。
廊下でムーンウォークすること数十往復。ようやくお目当ての人物がやってきた。
「中央府奉活局からやってまいりました西条ケイです」
「同じく、天城早苗です。本日はよろしくおねがいします」
ネックストラップに写真入りの身分証明証が入っているが、それ以外にも警察手帳のような物も持っている。
この二人が俺の担当官。前に一度、家に来たことがある。
我が家で奉活の打ち合わせをしたのだが、そのとき奉活局の権限についても教えてもらった。
なんとこの二人、男性に不埒なことをしようとした女性が出た場合、実力(つまり暴力)で排除することが認められているのだ。
ゆえに腰に警棒を下げている。
肩に笛と無線機を装備し、膝にプロテクターが巻いてある。いったいだれと戦うつもりなのか。
「今日はよろしくお願いします」
俺がニコニコ顔で出迎えると、なぜか二人は引いていた。
「本日は、特区外の奉活になりますので、車でゲートまで移動して、外に出てからまた車で移動することになります。乗り換えが発生しますが、ご了承ください」
「大丈夫ですよ。さあ、行きましょう」
二人を引き連れるようにして、俺は車に乗り込んだ。
車は黒塗りの目立たないものだった。
横に「奉活局」とか書いてあるかと思ったが、それもない。
どこぞの高貴な生まれよろしく、窓をあけて手を振ろうと思ったが、隣の天城さんに真顔で止められた。
どうやら俺はいま、かなりハイになっているらしい。
特区の外へ出るのに面倒な手続きがあるはずだが、ぜんぶフリーパス。
こんな簡単なはずはないのだが……いいのか?
「こちらに車を用意してあります。清麗女子高校までおよそ四十分です」
今度は天城さんが運転し、西条さんが俺の隣に座った。
「あと四十分ですか。楽しみです。早く着くといいですね」
なぜか、「えっ? なに言ってんの、この人」みたいな顔をされたが、俺は気にしない。
やべえ、女子校だよ、女子校。
花園、女の園、神秘のヴェールに包まれた秘密の園。
もとの世界だったら、女子校に潜入とか都市伝説レベルの話だったのに、なんと招かれて堂々と訪問できるのだ。
もうテンション上がりまくりで、運転する天城さんがいなかったら、となりの西条さんを襲っているところだった。
「ぐふ」
あっ、変な声が出た。




