045 班外交流(1)
「みんな聞いてくれ!」
俺の張り上げた声に、クラス内の会話がすべて消えた……どころか、みんな一瞬でこっちを見た。
めちゃくちゃ注目されている。なんか緊張してきた。
だが、ここで怯むわけにはいかない。
もとの世界だって、このくらい注目されたことはあった。
柔道の大会で、大舞台に出たことだってあるのだ。
今後も注目されることは増えるはずだ。クラスの規模くらいで萎縮してどうする。
俺は自分を叱咤したあと、大きく息を吸い込んだ。
「みんな、この前の自己紹介文、ありがとう。時間がかかったけど、全部読ませてもらった」
一瞬だけ、教室内がざわっとした。
読んでくれたんだと、かすかに聞こえたので、悪い反応ではないだろう。
「みんなの気持ちはよくわかった。それで思ったんだ。みんなのことをもっと知りたいと……今度は文章じゃなくて、直接話してなんだけど」
そこから先は続けられなかった。教室が「ワッ!」っと沸いて、俺の声はかき消されてしまった。
アイドルのコンサートがはじまったのかな?
もう一度、声を張り上げようとしたが、やってくる彼女たちを見て諦めた。
とりあえず落ち着くのを待とう。
その後、何事かと教室の外へ出ていたクラスメイトたちも加わり、しばらく教室内が騒然とした。
淳を見ると、教室の隅で小さくなっていた。ほんと、スマン。
俺がこの話を持ち出したのには、理由がある。
班員と中央駅に出かけたことで距離が縮まった。
親睦が深まったことで、教室内でも自然に話せるようになった。
俺も、高校で普通に話せる人ができて、ホッとしている。この班制度というのはいいものだ。
昔の話になるが、縁日で金魚すくいをしたとき、水槽の中を泳ぐ金魚の群れに目を奪われて、なかなかポイを使うことができなかった。
そのとき兄貴から「水槽全体を見るな。その中の一匹だけを目で追ってみろ」と言われた。
あのとき、なるほどと思ったが、それと同じだ。
「クラスの女子と話す」となると、焦点が絞れず、だれと話していいか困ってしまうが、班を作ったことで、話す相手が絞られた。
だがこの班制度にも欠点がある。とくに男子が少ないこの高校ではそれが顕著だ。
班員外の女子は、楽しそうに話す俺たちを指をくわえて見ていなければいけない。
これはストレスが溜まるだろう。
俺が班員と親しげに話せば話すほど、仲良くなればなるほど、のけ者にされた者の鬱憤が溜まっていく。
それは本意ではない。
ならばどうすればいいか。彼女たちと話す機会を設ければいいのだ。
理由はなんだっていい。中央駅に班員と出かけたときだってそうだったのだ。
親しくなる機会をつくれば、彼女たちはそれに乗ってくれる。
だが、こういうのを一気に進めると、あちこちに弊害がおこる可能性がある。
俺だって手が回らなくなるだろうし、唯一の男友達である淳に迷惑がかかるかもしれない。
俺は時期を見て、段階的にゆっくり進めていこうと考えていた。
時間は十分にあるし、夏休み前に全員と親しくなれればいいなと漠然と考えていた。
だがいまの状態ならば、計画を少し早めても問題ないだろう。おそらく。
逆に、先に延ばせばそれだけ、班員と彼女たちの溝が深まっていく。
結果、俺の言葉を受けて、クラスの親睦をはかる計画がスタートした。
具体的には今日から毎日、一班から順に談話室で俺と話をしようということになった。
俺としては、数人ずつ、放課後の教室でダベればいいかなと思っていたが、「班ごとにしましょう」と言い出す女子が出たあと、「私、談話室予約してくる」と止める間もなくだれかが駆け出していった。
現役の忍者かな?
その後、鬼気迫るジャンケンがはじまりかけたので、俺が仲裁して、一班から順にということで落ち着いた。
「班単位と言ってもこれは強制じゃないから、そのことは勘違いしないでほしいんだ。あくまでその日の予定が空いていて、俺と話したいと思った人だけ参加でいいから」
そう伝えたが、おそらく予定がある人でも無理に予定を開けるんだろうなと思った。
そして放課後、俺は談話室にいる。
ここは申請すればだれでも利用できるらしく、中はテーブルひとつだけという殺風景な部屋だ。
各自がパイプ椅子を組み立て、使い終わったら掃除して鍵を返却という流れらしい。
俺の眼の前に、一班の五人が並んで座っている。集団面接かな?
「もっとこう、輪になろうよ」
そう告げると、テーブルを囲むように彼女たちは座りなおした。俺はお誕生日席に座らされた。
ろうそくを一息で吹き消せばいいのかな?
「班長の吉村明美です。ほ、ほんじてゃ……」
吉村さんが噛んだ。ここは俺がリードして、余裕をみせよう。実際には、いっぱいいっぱいだが。
「えと、この機会を設けたのは、早いうちにみんなと親睦を深めたかったからなんだ」
いろいろ考えた結果。なるべくフレンドリーな感じで話すことにした。
俺より緊張している人がいると落ち着けるし、こうして彼女たちの顔をみる余裕も生まれる。
彼女たち五人はとても緊張しているようだが、聞いたところ全員が特区に住んでいた。
「わたしは小学校と中学校が女子校だったので、実は男子と話した経験があまり……」
吉村さんはそう恥ずかしそうにつぶやいた。
「ああ……」
特区在住の女子といっても、だれもが共学に通えるわけではない。
小中は入学する男性の数に合わせて女性の数を決めるため、あぶれた者は必然的に女子校へ行かされる。
「それじゃ、自由に話そうか。……といっても何を話していいか分からないと思うし、そうだな……たとえば大変だと思ったこととかある? 生活とか、勉強とか、運動、趣味、人間関係でもいいし、ゲームのクリアでもいいよ。各自が最近大変だなって思ったことがあったら、聞いてみたいかな」
俺の提案が意外だったのか、最初は首をかしげていたが、一人がサッと手をあげた。




