397 反響
九月上旬。今日はゲーム実況の日。
「……よっし、ボス倒した。みんなありがとう!」
視聴者の人たちとパーティを組んで、オンラインゲームのメインストーリーをクリアした。
このゲーム、キャラのレベルが離れすぎているとパーティを組んでも同じダンジョンに入れないため、俺のレベルに近い人が選ばれたと聞いている。
「これ、難易度高いゲームのはずだよね。結構楽勝だったかも」
最終ダンジョンということでかなり気合いを入れていたのだけど、サクサク進んでラスボスもサクッと倒してしまった。
一人だと難しすぎて先に進めなかったのだが、これが数の暴力というやつだろうか。
そういえば、今回組んだパーティメンバーの装備だが、武器に派手派手しいエフェクトがかかっていたり、防具がキンキラしていた。
あの装備はどこで手に入るのだろう。
課金装備はないので、地道に素材を集めて、最大の八回まで装備強化したのだろうか。
「思ったより早く終わったし、どうしようかな。ちょっと雑談でもする? コメントに返信するよ」
今回はゲームの生配信だったので二時間を予定していたのだが、道中サクサク進んでしまったため、配信終了まで四十分も余ってしまった。
『選挙のアレ、すごいですよね。大丈夫ですか?』
視聴者のコメントに答えていくと、選挙の話題が出た。政治と宗教は御法度にしているのだが、このくらいならまあ許容範囲だろう。
「選挙かぁ。俺は選挙権ないし、まわりは静かだよ」
未成年は選挙活動に参加できないので、この運動期間中はただ眺めているだけだ。
告示日を過ぎてから外部からの接触はない。静かなものだ。
俺がコメントに答えたからか、選挙関連の話題が上がった。
『テレビで政治討論しているよね』『毎日やってる』『教育改革が選挙戦の争点になってて笑った』『既成事実化しているよね、教育改革』『オンライン授業とかおもしろそうだし、学生以外でも見られるのかな』『登録すれば見られるんじゃない?』
視聴者のコメントが続く。みんな興味があるようだ。
実際、仮面雑談配信のあと、ネットでの反響がすごかった。テレビ局が、後追いで特集を組んだほどだ。
仮面雑談配信はテレビで使えないので、もっぱら俺が話した内容をフリップボードに要約されて登場していた。
教育のオンライン自由化について、有識者たちが真面目に討論をしていて驚いたほどだ。
さまざまな立場の人たちが喧々囂々とやりあったため、各政党に問い合せが殺到。
言ってしまったことは事実なので、急遽公約に加え始めたところも出てきた。
本来公約なんてものは、慎重に吟味した上で発表するらしい。
関連団体へ「○○○を党の公約としたい」と働きかけ、意見を求めたり、利益を調整したりするらしい。
なぜそんな面倒なことをするかといえば、公約を実現する途中で、既得権益が脅かされる団体が出ることがある。
なんの挨拶もせずに公約を推し進めると、そういう団体はいい気持ちはしない。ずっとしこりが残るようだ。
そこで公約として発表する前に話をもっていき、利益調整をしたり、内容をマイルドなものに変える配慮を行うらしい。
今回、そういった根回しを一切せずに公になってしまった。
しかも選挙運動期間中というのもあって、各政党が右往左往しているのだという。
そこに目をつけたテレビ局が特集を組んだら大当たり。
連日連夜、選挙報道とからめて扱っていたりする。
「いろんな人が真剣に話し合ってくれて頼もしいよ」
俺はそう締めくくった。
教育のオンライン化は、俺がやるわけではないのだ。
各政党ががんばってくれるはず。公約に掲げたのならば、しっかりと実現してもらいたいと思っている。
そんなゲーム実況の日から数日経った日。
「なあ香流、特区の外に行ってみたいと思うか?」
学校の休み時間、俺は香流にそんな質問を投げかけてみた。
「特区の外? 僕はあんまり行きたくないかな」
予想通りの答え。十代男性なら、ほとんどがそう答えるだろう。
だから俺は、もう少し突っ込んで聞いてみた。
「まったく興味がないわけじゃないだろ? どうして行きたくないんだ?」
「やっぱり注目されるのと、手間とか考えると面倒だよね。あと、安心できないのは辛いかな」
「注目されなかったり、手間が少なければ行ってもいいのか?」
「そうだね。僕が社会に出て働くようになったら、特区の外へ出ることもあると思う。結婚して子供が大きくなったら、旅行に行くこともあるかもしれない。けどいまはいいかなと思っちゃうね」
香流の場合、高校生のうちは、特区の外に出るハードルは高いようだ。
淳に聞いても同じ答えが返ってくるだろう。共学校にいてすらそうなのだ。男子校に通う高校生に聞いたらもっと極端かもしれない。
「じゃあさ、何が一番ネックなんだ?」
「やっぱり不自由なところだね。男性が滅多に歩かないから、どこに行っても注目されるでしょう? 行きたいところに行く途中、行ってから帰るまでずっとそんな感じだよね。あと、男性用のトイレとか席とかないから、外での活動すべてにストレスがかかると思うんだ。わざわざそんな思いまでして外に出る必要あるかな?」
どうしても行きたいところ、見たいものがあれば別だが、多大なストレスを感じてまで外へでかける意義が見いだせないようだ。
たしかに特区の外へ出て帰ってくるだけなら、女性の目は気にしなくていい。そうではなく、テーマパークで一日遊ぶとか、観光地を巡るなどしようと思えば、どうしても注目を浴びてしまう。
「情報を得るだけなら、テレビかネットを使えばいいしな」
「そうだね。だからこの前宗谷くんが言っていた教育のオンライン化はいい案だと思ったよ。わざわざ外へ出かけなくても、いい授業が視聴できるんだし」
「そうだな。あれは特区の外にも世界が広がっているってことを知ってもらうのも入っているんだ。男性ってさ、特区の外にまったく興味ないじゃん。とくに学生のうちは。だからまず、一番身近なところから知ってもらおうと思ったんだよ」
向上心のある男性ほど、自宅に居ながらにして日本中の授業が受けられるのは有益だと考えるはずだ。
これまで「まったく知らなかった学校」の「まったく知らなかった授業」を受けることで、特区の外のことを知ってもらえると考えたからだ。
「特区の外を知るきっかけになると思うよ。それに外のことを知れば、少しはハードルが下がるかもしれないね」
「そうなってくれるといいんだよな。あと香流の言葉を聞いて、少しだけだけど、道筋が見えたかも」
「僕の話? 何か変なこと言ったっけ?」
「単純に手間が嫌だってとこだけど……まあいいや。ちょっと考えてみるわ」
「うん。がんばって?」
香流は不思議そうに首を傾げていた。
いろいろやることが重なって、お風呂で寝落ちしかけるくらいには忙しかったです。
20日までそれが続きそうで、21日からおそらく通常に戻れるかなと思っています。
引き続きよろしくお願いします。




