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389 さいたまフェスタ(6)

 インタビューが終わって、俺はひと息ついた。

「イベントの残りはあと二つだよな」


「そうだよ! 今度はボクが担当するからね!」

「そうか。よろしくな、リエ」


 頭を撫でたら、リエは「えへへ」と満足そうに微笑んだ。

 いつもフリーダムなリエだが、こういうときはとにかく可愛い。


「次のイベントを提案したものリエだったよな」

「うん。武人くんならきっとできると思うんだ!」


 ガッツポーズをするリエに苦笑する。期待が重い。

「だったら頑張るか……けど俺が記録に挑戦するだけだろ? 見て楽しいものなのか?」


 周囲のスタッフに目をやると、全員が力強く頷いたので、楽しいらしい。

 次のイベント名は『世界記録に挑戦』だ。


 なんだそれと思うかもしれないが、『ギネス世界記録』のようなものが、こっちの世界にもある。

 第三者が見ている中で、公正な状態で行われた正確な記録は、ちゃんと世界記録として登録されるらしい。


 そしてリエが調べた結果、俺が記録更新できそうなものがいくつかあったという。

 というわけで、俺が記録更新を目指してみようということになった。


 今日ここに集まった観衆は、俺が挑戦する様を見守り、応援し、記録更新した瞬間に証人として立ち会うことになる。

 それでいいのだろうか。いいのだろうな。


『世界記録に挑戦』イベントが終わったあとは、三十分の休憩ののち、『フィナーレ歌唱・心をひとつに』がはじまる。

 エンディングみたいなものだ。


「しかし、オークションとか宝探しイベントができなかったのは残念だよな」

「ユウが言うには、制御できなくなると困るし、怪我人も出るだろうって」


「だよなぁ……」

 裕子の判断は正しいかもしれない。


 実は当初、チャリティイベントとして俺の自作小物のオークションが企画されていた。

 だが煮詰めていく間に、参加者が過熱しすぎると運営では制御できないことが分かり、泣く泣くお蔵入りとなったのである。


 即決価格を決めたらその値段で決まるのでオークションの意味はなく、参加者同士で問題がおきた場合、悪しき前例が残ってしまう。


 同じく、会場にピンポン球を隠し、見つけた人に非売品の賞品と交換する宝探しイベントも計画された。

 結構いい案だと思ったのだ。


 見つからない場合はヒントを出せばいいと簡単に考えていたが、人が殺到して将棋倒しがおこる可能性があり、奪い合いで怪我をしたり、地面を掘り返したり、テントが破壊されたりするかもしれず、宝探しイベントもまた、お蔵入りとなった。


 両イベントとも、実施したら大いに盛り上がっただけに残念な気がする。




「宗谷様、お休みのところ申し訳ございません。少々よろしいでしょうか」

「橋上さん、なに? どうしたの?」


 もうすぐ休憩も終わりという頃になって、橋上さんがやってきた。

 彼女はこのフェスの全体を見ているので、テントの中にまで来るのは珍しい。


「ご報告します。すべて物品が販売終了いたしました」

「そうなんだ。一つも残ってないの?」


「はい。用意したグッズのみならず、飲食用に用意しました店舗もすべてです。飲み物ひとつ残っておりません。売る物がなくなってもテントに人がやってきてしまいましたので、現在撤収中です」


「……すごいね」

 物販は、買えない人が出ると大変なので余裕を持って用意したと聞いていたが、予想をはるかに上回ったようだ。


「それでですが、来場された方が手持ち無沙汰になってしまいました」

「あ~……そうか、そうだよね」


 テントをすべて片付けてしまったら、もう時間を潰せる施設はなにもない。

 時計を見たら、午後三時二十分。フェスの終了は午後六時。


「残ったイベントはあと二つございます」

「だよね。それで手持ち無沙汰のフェス参加者たちがいっぱいいると……」


「予定は変更しないつもりですが、そうしますと後半のトーンダウンは避けられません」

「休憩なしにしてもいいけど、早く終わってしまうんだよな。かといっていまからイベントを増やすのも大変だし……」


 来場したみんなを最後まで楽しませたい。楽しんでもらいたい。

 だけど彼女たちはすることがない。どうすればいいだろうか。難しい問題だ。


 テントの隙間から会場を覗いた。

 たしかに物販のテントは畳みはじめている。


 並んでいる人がいなくなったせいで、行くところがなくなった観衆は、ただ歩いているだけだ。

「次のステージまで時間を潰しているのか……ん? あれは?」


 上空に撮影用のドローンが飛んでいる。

 人の動きや混雑具合などを計測するためドローンを飛ばしたのだが、あれを使えないだろうか。


 もとの世界だと、安全性の問題で大勢が集まる場所は飛行禁止だが、技術が発達しているからなのか、この世界ではそういう禁止事項はない。


「橋上さん、あのドローンで撮影とかできる?」

「はい、もちろんでございます。映像と画像、それぞれ高解像度のものが撮れます」


「だったらさ、フィナーレが終わったら、みんなでドローン写真を撮らない? それをあとで販売とかできるかな」


「はい。撮影も販売も問題ありません。社のウェブページでは、後日アンケートを実施しますので、そこで販売することは可能です」


「じゃあ、休憩なしでイベントを続けちゃおうよ。それだと三十分余るけど、最後に写真撮影すればちょうどいいんじゃないかな」


「……分かりました。スタッフと協議します。技術的には問題ありませんし、物販が終わりましたので、スタッフにも余裕ができております」

「よし、じゃあ、それで調整してみてくれる?」


 橋上さんは一礼して出ていった。




 結果的に、その写真撮影は大成功だった。

 世界記録を出すイベントも俺ががんばって、三つほど世界記録を更新した。くだらないものだが、記録は記録だ。


 会場が盛り上がった状態でフィナーレに突入し、俺がみんなに感謝を述べたあとで合唱。

 心をひとつどころか、会場がひとつになったと思う。


 そして最後の最後に、ドローンによる記念撮影。

 今日会場に来たみんなが、俺の周囲に集まった。


 ドローンがその様子を何枚も撮影していた。

 きっと、みんなのいい思い出になったと思う。


「一つだけ気になったんだけどさ」

 スタッフは片付けの真っ最中。俺は指示を出している裕子に話しかけた。


「気になったこと? 何があったの?」

「たまに会場の外から……休憩中にスピーカーの声が聞こえたんだけど、あれなんだったんだろう」


「あれは……街宣車ね。選挙運動はできないんだけど、ただの政治活動ならできるのよね。だから選挙の候補予定者が今日一日、この周辺をグルグル走っていたんだと思う」


「あっ、来月総選挙か!」

 九月は、何十年かぶりの大荒れが予想される総選挙だった。 


「立候補者は必死なのよ」と裕子は言ったが、副音声で「だれかさんのせいで」と言われた気がした。

 いやきっと、副音声などなかった。



なんか「なろう」のレイアウトが変わって、投稿時にスクロールとクリックする手間が増えました。

そろそろ引退する頃合いか。

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― 新着の感想 ―
いつも楽しみに読ませていただいております。 ……なので、引退しないで欲しくはあるのですが……大変ですよね……
[一言] 【あとがき】全体的に見にくくなりましたね。今風になったというか、カクヨムに寄ったというか。読み専なので投稿者様の苦労はわかりませんが…。
[一言] まだまだもぎすずさんの作品読みたいです。
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