表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/422

004 そしてスタートラインに立つ

「それで、俺の生活をサポートしてくれるんですよね」

 世界が違えば、勝手も違う。


 いくらこの世界の記憶があっても、わずかな差異が致命的な結果を招くことだってある。

 それに俺は、コミュ力が高いわけでもない。知識不足からいろいろやらかしそうな気がする。


『サポートですね! それはもちろんです。バッチリフォローしますよ。なにしろわたしが力を取り戻したのも、武人くんがこの祠の手入れを欠かさなかったからです。大船に乗ったつもりでいてください』

 女神がどんっと胸を叩く。


「それはありがたい」

『ですが、わたしにもどうにもならないことがあります。それは何といいましょうか。女神パワー?』


「女神パワー?」

 なんだそれは。


『わたしは人々から忘れ去られた古い神ですので、武人くんに放置されてしまうと死んでしまいます』

「ウサギかっ!」


『似たようなものです。ですから定期的に掃除に来てください。それとお供え物もお願いします。その二つさえ守ってくれれば、対価としてわたしの助言が得られます』


「サポートを受けるのに必要なのが定期的な掃除とお供え物? それだけでいいの? なんかこう、存在を世間に知らしめて、女神信者を増やすとか」


『わたしは疫病神(やくびょうがみ)として奉られていますからね。この科学技術が発達したいまでは、わたしの力は必要ないでしょう。武人くんを幸せにするくらいがちょうどよいのです』


「それでいいなら、そうするけど」

 (つつ)ましやかだな、女神パワー。けど疫病神って……。


『わたしはここから離れられませんが、森羅万象(しんらばんしょう)を通して、世界を知ることができます。きっと役に立つアドバイスができるでしょう』

 なるほど、さすが女神。『さすめが』だ。それは非常に助かる。


「そういえば、俺の身体に入った方はどうなったの? 突然入れ替わって混乱しているんじゃない?」

 残された記憶からすると、事情も一切説明せずに入れ替わっているのだが、大丈夫なのだろうか。


『もちろん、それはサポート済みです』

「サポート済み?」


『はい、向こうでわたしが事情を説明したら、とても喜んでくれました。わたしもずっと彼を陰ながら見守っていたんです。いい人生でしたよ。高校、大学とワンダーフォーゲル部に入って山々を歩き、卒業後は登山家として活動。多くの山を制覇して、幸せな一生を送ったといえます』

 女神がドヤッとした顔をした。


「ちょっと待て! なんでもう人生を終えてるの? 時間軸とかどうなってるわけ?」


『そりゃ女神ですもの。わたしは空間と時間には縛られません。というわけで彼は、向こうで幸せな一生を送りました。もとに戻りたいって言っても、もう無理です』


「それは別に……まあ、俺の身体で幸せな人生を送れたんだったら、それでいいけど」

 俺だって、こっちで幸せになればいいわけだし。


 しかし登山家か。入れ替わらなかったら、そういう道もあったんだろうな。

 一生、女性と縁がなかっただろうけど。


『それで何か質問とかありますか? 初回限定で、何でも答えますよ』

 質問か。何かあるだろうか。いっぱいありそうな気もするし、取り立ててない気もする。


「そういえば出会ったとき、白穂(はくほ)って名乗っていたよね。それに疫病神って……一体何の神様なの?」

 知らない神様の名前だったので、ちょっと気になっていたのだ。


『しいて言えば、豊穣(ほうじょう)の女神でしょうか。いまから千年くらい前に、とても大きな飢饉(ききん)があったのです。日照りで田んぼの水がカラカラに乾いて、稲がみんな真っ白になってしまったんですね。そのとき、この周辺に住んでいた人たちが唯一、緑の多かったここに祠を建てて、わたしを(たてまつ)ったのです。水不足によって枯れ果てた稲のことを白穂(しろほ)といいまして、それがわたしの名の由来です』


「ん? 飢饉を鎮めるために奉った感じ?」

『そんな感じですね。長い年月が過ぎて治水(ちすい)が進み、飢饉の存在が忘れ去られました。もちろんわたしの存在も。ですがつい最近、武人くんの尽力によって、わたしは力を取り戻したのです』


「なるほど……信仰が力になるのかな」

 掃除とお供えが必要と言っていたし。


『そういう認識でもいいです。お供えはおいしい食べ物でお願いしますね』

 なかなか欲に忠実な神様だ。食欲というところは、飢饉が関係しているのだろうか。


「それで質問を思い出したんだけど、高校で俺は、女性にどういう態度を取ればいいのかな? これまで女の子と喋ったこともないんだけど」

 急にモテると言われても、どうすればいいのか分からない。


『普通に接してあげればいいと思いますよ。多くの女性たちも、それを望んでいますし』

「普通にって、いままで本当に女子と話したことないから、その普通が分からないんだけど」


 情けないことに、事実だ。

 女子もそれが分かっていたのか、俺と会話したくなかったのか、イエスノーで答えられることしか聞いてこなかった。


 四角い顔に太い首、毛むくじゃらの二の腕、がに股の中学生に、好き好んで雑談するような女子はいなかったってことだ。

 それに俺から話しかけたらどんな反応がおこるか、これまでの経験で嫌というほど分かっている。


 女子と雑談に興じた経験すら皆無なのに、『普通に』接することができるだろうか。

『話しかけなくても大丈夫です。目があったら笑いかけて、手でも振ってあげればいいのです』


「手を振る……それならできるかな」

 女子との会話は、この環境に慣れてからでもいいだろう。


 慣れてから……うん、ゆっくり行こう。

 俺はいま、スタートラインに立ったばかりなのだ。


 焦る必要はまったくない。

 そう考えると、少しだけ希望が見えた気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公は努力の仕方を間違えてたんだなー 身嗜みは大事だし格闘技も安直すぎる まあ元の容姿がどうしようもなくダメならどの道なんだろうけどさ…w
[一言] いや毛は剃ろう主人公wそれがなかったらだいぶマシだったんじゃないw?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ