223 2回めの撮影会
11月中旬。
淳が、はじめての奉活を経験してきた。
奉活の前日も飄々としていたので、話を振っても大丈夫そうだと判断して、どうして平気なのか聞いてみた。
「宗谷くんを見ていると、緊張するのが馬鹿らしくなるよね」と、心配して尋ねたのにディスられた。
親が勤める会社の親会社らしく、社長含めて、何度かパーティで顔を合わせた人が多いらしい。
週明け、登校した淳に聞いてみたら、何事もなく終わったとのこと。
「やっぱり宗谷くんと一緒にいると、度胸がつくね」と、これまた朗らかな顔で言われた。
本来は喜んでいいはずなのだが、なぜか複雑だ。
「そういえば、12月の奉活先を決めてきたぜ」
「そうなんだ。どこにしたの?」
「イベント会社で『見楽来企画』ってとこ。名前をよく目にするし、一度行ってみたいと思ってたんだよ」
噴水公園で行われた『世界の猫展』や、ゲーセンの張り紙で知った『東京特区脱出ゲーム』などを企画した会社だ。
その二つのイベントに参加して、俺は十分楽しんだ。
企画・協力の欄にいつも見楽来企画の名前があったので、ずっと気になっていたのだ。
探したら、奉活カタログに名前があったので、そこに決めた。
奉活は、気になった企業に片っ端から突撃できるのがいい。来月も楽しみだ。
そんなこんなで日が過ぎ、二回目の撮影会がはじまった。
パンフ作成のために、俺がまた一肌脱ぐのだ。
物理的に脱いでみたいが、校舎内で脱いだら大変なことになるだろう。
いや、ワンチャンあるか? せっかくイケメンになれたのだ。
若く美しいうちに、記録に残しておくのはどうだろうか。
もとの世界でも、そんな理由で脱いだ女優がいたと思う。
二回目の撮影会も、カメラマンは前回と同じ。俺が脱ぎだしたら、嬉々として撮影しそうな気がする。
放課後になるとカメラマンがやってきて、すぐに撮影がはじまった。
相手はプロなので、言われるままに演じていれば、いい絵になると思う。
「いいですよー、最高です!」
このカメラマン、もとの世界で女性を褒めに褒めて脱がせる写真家のようなことを言っている。
「これは伝説的な仕事になりますね」
先ほどからやたらと上機嫌だ。
いま俺は、冬服で校内を歩いている。
なるべく自然にという注文だったので、近くにいた女子に話しかけたり、ちょっかいをかけたりしていたら、ダメ出しを食らった。
「すみません、女生徒のみなさんが緊張しているので、ちょっと使えない絵ばかりになってしまいました」
俺は平常心でも、写真撮影に帯同している女子生徒たちはそうではない。
ただでさえカメラに狙われて緊張しているのに、男性に話しかけられて、見て分かるほどギクシャクしていた。
「そうですか。じゃ、ソロで歩きますか」
「夏服でもそれなりに撮っていますので、今回はアップ多用で行きましょう」
「これ、学校のパンフ撮影ですよね」
「そうですよ、忘れたんですか?」
「俺のアップですか?」
「そうです。需要大ですから、購入者の多くが気にいると思いますね」
校内の撮影はどこにいったんだろうか。
被写体深度を俺に合わせてアップ撮影したら、背景がぼやけまくるだろうに。
「でもさっきの女子とのからみ、もったいなかったですね」
女子さえ緊張しなければ、いい絵が撮れたのにと悔しそうだ。
「だったら、顔が映らなければいいんですよ」
俺は近くにいた女子に手招きすると、やってきた彼女の後頭部に手を添えた。
「おっ? おおっ?」
カメラマンのテンションが上がる。
女子生徒の顔を胸に埋めさせてウインクをする。
「ひゃーっ! キタキタキタッ!」
近くでうるさいほど、シャッター音が響く。
あとギャラリーもうるさい。
映りたそうにしている女子がたくさんいたので、腰をだいたり、背中に手を回したりして、背後から撮影してもらったり、ちょうど顔の部分が見切れるようにしてもらったりした。
「やばい、やばいですよ、これは。発売したら、爆速で話題になります」
「いやもう、校内とか全然写してないでしょ」
手段と目的が逆になってないか?
「需要があれば、供給するのが資本主義というものです」
「主語がデカい?」
いま資本主義の話なんて、してなかったよな。
「生写真をオマケにつけたら、さらに売れそうですよ!」
「全7種のランダム封入とか面白そうですね。シークレットを1枚いれて、全8種とか」
「そのアイデア、いただきっ!」
「学校のパンフですよね?」
「学校のパンフに決まってるじゃないですか」
なんでそこで、「何をいまさら」みたいな顔をされなきゃならないんだ?
わー、ぎゃーと言いながらも、撮影は順調に進んだ。
俺が2回目というのも大きいだろう。あとカメラマンとの呼吸も合ってきた。
「……それで、この前頼まれていた件ですけど」
休憩中、カメラマンの女性は、休んでいる俺の近くにきてそっと囁いた。
「調べてくれたんですね。ありがとうございます」
「でも芸能界に興味はないんですよね。それでなぜ?」
「興味ないから……ですかね。どんな世界なのか知っておいてから、距離を取っておこうと思った感じかな」
実は前回の撮影のとき、雑談で、昨今の芸能界について生の情報はないか、聞いたのだ。
というのも男性に関する情報はかなり歪められており、いくら調べても素の情報は手に入らなかった。
もとの世界でも、昔は作られたアイドル像をテレビや新聞で報道していた。
カメラが回っていないとき、そのタレントはどんな人物なのか。
撮影のときタレントはどのように扱われているかなど、一切お茶の間には伝わらなかったのだ。
こっちの世界でもそれは同じで、こと男性のことになるとそれが余計に顕著。
ネットで調べた限りだと、生の情報はほとんど出てこなかった。
「業界の人に、芸能界に進出している男性の話を聞いてきましたよ。どこにも公開するなと散々念を押されたんですからね」
「ありがとうございます。お礼に胸を揉みましょうか?」
「いいんですか? ……けど、ここでしてもらったら確実にクビですね。よくて特区退去、普通に捕まります」
「まあ、そうでしょうね。……で、揉んでいいですか?」
「あと5年若かったら、人生を棒に振ってでもお願いしたんですが、さすがに守るものができてきたいまは、無理です」
「残念」
ほんと残念だ。
「それで業界の人から聞いた話なんですけどね」
カメラマンの話ははじまった。




