208 そうだ、○○に行こう
その日、久しぶりにライブでゲーム実況を行った。
事前に告知していたこともあり、多くの人が視聴してくれた。
今回はFPSの対戦ゲームだったので、ロビーでの待ち時間が存在する。
その時間は視聴者からの質問に答えたり、雑談したりして過ごした。
――2組の男子が不登校になったって本当ですか?
俺が反応するより早く、コメントが消えた。
いまのコメント……というか質問は、オペレーター役の菊家さんが、素早く消したようだ。
つまり、触れるなということだろう。
俺以外の男性についての話題は、慎重にならざるを得ない。俺も気づかなかったフリをしてゲーム実況を続けた。
その後、何事もなくライブ実況が終わる。
映像が暗転し、マイクのスイッチが切れた段階で、俺は肩の力を抜いた。
「……ふぅ〜〜〜」
「お疲れさまでした。今回も大好評でしたね」
返事の代わりに、俺は菊家さんに向かって親指を立てた。
途中、何度か大きな声を出したので、少し涸れ気味だったりする。
「みんなお疲れ様。そういえば途中で2組の男子? 不登校がどうのってコメントがあったけど、あれなに?」
1年2組のことだろうか。だとしたら隣のクラスだ。
男子は各クラス二人。もちろん、何度も話したことがある大事な男友達だ。
「隣のクラスの剣持くんのことだと思います」
「晴太か……もしかして、本当に不登校に?」
剣持晴太はやや小柄ながら、アイドルばりのルックスをしたかわいいタイプの男子生徒だ。
運動は得意でないらしく、体育祭では淳と同じく、簡単な競技を一種目だけ出場していたはずだ。
「先週から登校していないそうです」
「へえ……って、体育祭の直後くらいからじゃん。どうして?」
怪我でもしたのだろうか。
「隣のクラスですし、ちょっと詳細は分かりませんけど……」
「調べましょうか?」
菊家さんは逡巡していると、パソコンをいじっていた橋上さんが話に加わってきた。
「いや、いくら隣のクラスだからといって、男子の情報は渡さないだろ」
そこは徹底されているはずだ。
「個人的に親しい人がいますので、許可さえいただければ、写真数枚と引き換えに情報は得られると思いますけど」
「どうしても知りたいわけじゃないからさ、そっとしておこう」
「分かりました。もし、興味がありましたら、あとからでも調べますので」
「うん、ありがとうね」
長い人生、学校に行きたくなくなることもあるだろう。
俺だって、バレンタインデーの日には、学校に行きたくなかった。
朝、登校直後に「放課後にね」「おう」なんてやりとりを聞いた日には、血涙が出そうだった。
俺くらい、「爆発しろ」と叫んだ人間は他にいないのではなかろうか。
そう考えると、いまの環境は恵まれている。
こんな可愛い女の子たちと一緒にいられるのだ。
「そうだ。明日の放課後、みんなでゲーセンに行かないか? 学校のこととか、動画のこととか忘れて、楽しもうぜ」
「本当ですか?」
「行きたいです!」
食いつきがいい。
「じゃ、決まりだな。久しぶりの集団デートだぜ。ワクワクするぜ」
そう言ったらなぜか彼女たち、顔を赤らめてしまった。
翌日の放課後、俺たちはアミューズメントパーク『Wish』に来ていた。
ここは、一階がゲームショップ、二階にゲームセンターが入っており、三階が映画館とボーリング場になっている総合娯楽施設だ。
「これを見てくれ」
俺は彼女たちにスマートフォンをかざした。
「男性入場の際、メダル200枚進呈?」
そう、どこかにいいゲーセンがないかと調べていたら、ここがヒットした。
というのも、なんとここ! 男性に限り、200枚分のメダルゲームが無料でできるのだ。
俺はドヤッっていたと思う。
ここを見つけてきたアンテナの高さを讃えられるのかと思ったが、どうにも様子がおかしい。彼女たちが微妙な顔をしている。
「調べました。メダル15枚で100円ですね。200枚ですからおよそ1300円分に相当します」
「なっ、すげーだろ?」
と言ったが、反応は変わらず。
「宗谷くん……それで男性が呼べるなら、ものすごく安いものだと思うわ」
「えっ? そうなの?」
「男性なら1日中、どの台も無料とかにしたとするでしょう? もし連日十人くらいの男性が常駐していたら、その十倍以上の女性が集まるわよ」
「メダル200枚に釣られる男性はいないでしょうね」
アンテナたかーい、すごーいと言われると思ったのだが……。
「ま、まあ……気を取り直して、中に入ろうぜ。ゲーセンなんて、この前淳と来たとき以来だ」
中に入り、受付に向かうと、ちゃんとメダルを200枚くれた。
受付のお姉さんが、会員カードをつくると250枚までメダルを増やせると言っていたので、早速作ろうとすると、左右から羽交い締めにされた。
もう少しよく考えてから行動しなさいと、母親みたいな小言をいわれた。
「宗谷様、いまはただでさえ目立っているのですから、こういった施設にしょっちゅう訪れますと、噂になります」
「マジで? あっでも、ゲーセンはいろんなところをはしごした方が面白いかもな。殿プレイもしやすいし」
そう言ったら、彼女たち全員がギギギギと古いブリキ人形のように首を回してきた。
「以前、久能様と遊びに行かれたと伺いましたが、そのときに……?」
「ああ、噂の殿プレイっての、初めて体験したぜ」
なぜか四人が額を突き合わせて話し合いっている。
「その件はあちらの班員の方に確認を取ります」と聞こえた。何を確認するのだろうか。
「つかぬことをお伺いしますが、一人でゲームセンターへ行ったりとは……?」
「ないってさっき言ったじゃん。淳と行った以来だよ」
「そうですか。それは良かったです。お姉様方から、なるべく行動は把握しておくように言われておりますので……」
橋上さんがブツブツとそんなことを言った。
お姉様方とは、真琴たちのことだろう。
同い年なのに、なぜか上下関係ができている。
「そんなことより、楽しもうぜ」
ここはお金で遊ぶゲームとメダルで遊ぶゲームがある。
まずはメダルゲームをやることにした。




