202 縁は結ぶもの
新章『決意新たなBBQ』です。
体育祭は、とても楽しいイベントだった。我がクラスは総合で3位。
1年で入賞を果たしたのだから、殊勲と言えるのではなかろうか。
これはすべて、クラスのみんなが一丸となって戦ってくれた結果だ。
俺たちの団結力が、結果に結びついたのだ。入賞できて、本当によかったと思う。
その後の打ち上げも楽しかった。
めずらしく淳も打ち上げの最後までいたし、みんなとてもいい笑顔だった。
打ち上げも終わろうかというとき、俺は締めの言葉を促された。
「――来年、クラスが変わっても、この思い出は永遠だぜ!」
いいこと言ったつもりだったが、なぜか号泣された。クラスの女子全員が、声をあげて泣いたのだ。
彼女たちはみんな、クラス替えで、離ればなれになるのが嫌らしい。
この団結力の強さを考えると、そう感じるのも頷ける。
本当にいいクラスだと思う。
10月も下旬となると、日差しがだいぶ穏やかに感じられる。
特区は落葉樹が多い。これらが一斉に紅葉したら、さぞ綺麗なことだろう。いまから楽しみだ。
俺は、森の中をゆっくりと歩いた。
もうすぐ女神の祠だ。
夏の頃は草の勢いが激しく、祠までの獣道が見えなくなったこともあったが、いまは大丈夫。
木々の間を縫って進んでいると、大木が目立ちはじめ、杉の香りが鼻孔をくすぐった。祠が近いのだ。
「……ふう、少し休憩するか」
だいぶ歩いたしな。
「なんでですか!? もうすぐ着くのに、なぜ手前で休むんですか!」
「あっ、女神。迎えにきたの?」
「迎えに来たのじゃありませんよ! 立って歩いてください。祠まであと少しなんですから」
「いや、先日の体育祭で力を使い果たしてさ。今日はここまでで帰ろうかと」
「じゃあ、その手に持っているものを置いてってください。私が責任もって処分しておきます! それで今日は、何を持ってきたのです?」
女神は腕を組んだまま、指先だけでコンビニ袋を指している。器用だな。
しかたないので、コンビニ袋の中からサーターアンダギーの袋を取り出した。
俺がよく行くコンビニでは、なぜか今頃になって『沖縄フェア』をはじめたのだ。
沖縄といえば夏! 灼熱の太陽!トロピカルな飲み物! そしてこのサーターアンダギーだ!
異論は認める。
しかしなぜ、秋のフェアに沖縄を選んだのだろう。
「そういえばさ、揚げドーナッツとサーターアンダギーって、区別つかなくないか?」
あれはどこが違うんだ?
「知りませんよ、そんなの。それより祠で食べましょう」
「……そうするか」
サーターアンダギーを食べていると、口の中の水分をもっていかれる。
そんなときはこれだ。シークワーサー。甘酸っぱい味が特徴の、これまた沖縄を彷彿とさせる飲み物。
これも沖縄フェアで買ったものだ。
俺がシークワーサーのキャップを外すと、すぐに奪い取り、飲み込めなくなったサーターアンダギーを流し込んでいた。
「うぐっ、ぐっ……ぷっはー……それで、今日はどうしたんです?」
口のまわりにサーターアンダギーのかすがついている。それでいいのか、女神。
「まあ、報告かな。体育祭でさ、ちょっとおもしろい人と出会ったんだ」
「おもしろい人ですか? 鼻でピーナッツを食べるような」
「だれだよそれ。そんなヤツ、いないだろ!」
「あれ、いませんですか? 鼻からスパゲッティを食べる人でしたっけ?」
「両方ともいねえよ! ……そうじゃなく、プロスポーツの世界で活躍している男性が、体育祭に来てたんだ」
プロゴルファーとして有名な雲井尊さん。
家に帰って調べたら、情報がモリモリと出てきた。
この世界の男性は総じて受け身のため、雲井さんのような男性は珍しい。情報には事欠かなかった。
興味あったので、ついつい何時間もかけて、ネットで調べてしまった。
体育祭実行委員長の雲井さんは、やはり彼の娘だった。
一夫多妻制なこの世界、奥さんといえる人は何人かいるのが普通。
尊さんの奥さんたちは、マネージャーやキャディをしたり、生活面をサポートしたり、遠征に一緒にでかけたりと自身の得意な分野で夫を支えているらしい。
雲井さんの母親もその一人なのだろう。
「なるほど、男性のプロスポーツ選手ですか。大変でしょうね」
「特区の外へ出ることも多いんだろうな」
結婚して子供がいるなら、特区外へ出る拒否感は少ないだろう。
淳をはじめ、高校生くらいだとまだ、「なんでわざわざ特区外へ?」と不思議に思うらしいが。
「少数ですけど、特区の外で活動している男性もいますし、プロスポーツ選手でしたら、スタッフやチームメイトがしっかりとガードするから、普通の人より安全ですね」
「その人はプロゴルファーだから、スタッフチームに守られてるのかもな」
いくら守られているとはいえ、特区外での活動は大変だろうけど。
おそらく表に出ないところで、苦労しているはずだ。
今度会ったら、そういうところを聞いてみたい。
見えているものだけが真実とは限らないのだから、実際に体験している人の意見は貴重だと思う。
「そういえば最近、どこの神社でも縁結びを願う人が多いようですよ」
女神から話を振ってくるのは珍しい。
「それって、他の女神から聞いたの?」
「そうです。真摯に祈る人の想いは、わたしたちに届くのです」
俺がこの世界に来ることになったのも、この身体の持ち主がここで祈ったからだったな。
「縁結びっていうと、彼氏や夫が欲しい的な?」
「それだけではないですね。我が子と出会わせてくださいってのも、縁結びの範疇ですよ」
「我が子と……? ああ、人工授精でか」
ほとんどの女性は、人工授精で子を授かる。
それもまた出会い。子と縁を結ばせてくださいになるのか。
この世界は、それなりに貯金がないと子育ては難しいらしいし、順番待ちをしているような話も聞いた。
この辺は、社会保障を男性に振り分けているのも影響していると思う。
先進国とはいえ、あまりに男性の扱いが雑だと、この時代、簡単に他国へ逃げられる。
男性が大量に他国へ逃げれば、政権がひっくり返る。
そんな無能な政府はいらないとばかりに、デモが発生する。
「ですが男性との出会いは、どれだけ祈っても叶わない……とは言いませんけど、難しいですね」
「男の子が生まれる割合も、いまと変わらないか、悪くなるんだっけか」
「そうですね。それだから男性との出会い、我が子との出会いを熱望する女性が多いのでしょう。いま特区の外で活躍する男性は、先進的だと思いますよ。妻となった女性やその子たちは、自慢できる父親で嬉しいでしょうね」
男性の妻や子になった女性は、勝ち組だ。そして俺の周囲にも、その勝ち組になった女性がいる。
特級ヘルパーの郁美さんだ。
彼女もまた、世の女性と同じように、自分たちの愛の結晶である子供を欲している。
「体育祭も終わったことだし、俺も近いうちに、勝ち組の女性に会いに行ってこなきゃな」
勝ち組といえる郁美さんでも、俺たちが気づかない苦労をしているのだろうか。
今度会ったとき、聞いてみるのもいいかもしれない。
残暑お見舞い申し上げます。
いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
おがけさまで、本日、連載開始1周年の迎えました。1歳の誕生日です。
そして本日より、6章『決意新たなBBQ』が始まります。毎日18時(午後6時)に投稿します。もちろん、6章完結まで毎日連載です。
本章では、主人公以外の視点を気持ち多めにしてみました。
気づいたことなどありましたら、いつも通り、感想欄に書いていただけると助かります。
本文中にある、揚げドーナッツとサーターアンダギーの違いってなんでしょうね。
私が知っているサーターアンダギーの作り方は、粉を油で溶きます。
違いはその辺かなと思っているんですが、どうでしょう。
さて、皆様にご報告があります。
予想ついている方もいると思いますが、書籍化&コミカライズ化いたします。
これもひとえに日頃より応援していただけるみなさまのおかげだと思っています。
ありがとうございます。
それでは引き続き、よろしくお願いします。




